朝鮮王朝史上、最も悲劇的な親子として知られる英祖(ヨンジョ)と思悼世子(サドセジャ)。この二人の物語に、新たな光を当てる重厚な歴史ミステリードラマ『秘密の扉』がついに始まりました。第1話から、息をのむような展開と、登場人物たちの深い葛藤が描かれます。

王座と引き換えに交わした秘密の盟約

物語は今から30年前、後の王・英祖がまだ王子だった時代から始まります。深夜、覆面の暗殺者に喉元を狙われる絶体絶命の王子。しかし、暗殺者は背後から斬り捨てられます。彼を救ったのは、冷静沈着な臣下キム・テクでした。

一安心も束の間、キム・テクが差し出したのは一枚の文書。老論(ノロン)派の重臣たちが見守る中、署名か、死かと迫られます。恐怖に震えながら王子が署名したその文書こそ、彼の未来を縛り付けることになる秘密の盟約書。老論派の力を借りて王座を得る代償に、彼らの操り人形となることを誓わされた瞬間でした。

時は流れ、英祖の治世30年目。かつての恐怖におびえる王子の姿はなく、老論派を牽制しつつ巧みに政治を行う王の姿がありました。しかし、老論派の領議政となったキム・テクは、かつて燃やされたはずの盟約書がまだ存在するという情報を掴み、再び王を意のままに操ろうと画策を始めます。

そして、一人の若い画員シン・フンボクが、偶然にもその盟約書を発見してしまうのでした。

本を愛する世子と、それを許さない時代

一方、英祖の息子であり、摂政として政治を任されている世子イ・ソンは、堅苦しい宮殿を抜け出し、親友のフンボクと共に街を歩いていました。彼らの目的は、当時禁じられていた貸本屋の利用券を手に入れること。民が自由に本を読み、知識を得ることを願うソンにとって、厳しい取り締まりは理不尽なものでした。

そんな中、役人に捕まりそうになったソンたちを、機転を利かせて救ったのが貸本屋の娘ソ・ジダム。彼女は、危険を顧みず、父が営む貸本屋のために街を駆け回る聡明で活発な少女です。

貸本屋への弾圧を目の当たりにしたソンは、民衆が自由に本を読めるよう、書籍の流通を合法化すべきだと臣下たちに宣言します。これに老論派の臣下たちは猛反発。国が乱れる反乱思想を煽ると口々に反対しますが、ソンは皆が革命の本を読んだからといって、皆が革命を夢見るのか?もしそうなら、それはこの国が間違っているということだと一喝し、自らの意志を貫こうとします。

父である英祖は、そんな息子の報告を受けてもただ笑うばかり。その真意は誰にも読めません。

繰り返される譲位宣言と、父子の埋まらない溝

臣下たちとの対立、そして師であるパク・ムンスからの王を敵に回すことになるという忠告に、ソンの心は揺れます。そんな中、宮殿を揺るがす一大事が起こります。

英祖が、キム・テクの不穏な動きを察知し、毒殺の危険を感じたことをきっかけに、突如王位を譲る!と宣言したのです。

この譲位宣言は、ソンにとって悪夢の儀式でした。物心ついた頃から、父である英祖が機嫌を損ねるたびに、この言葉を繰り返してきたのです。そのたびにソンは、幼い身で雨の日も雪の日も、昼も夜も、宮殿の庭で筵(むしろ)の上にひざまずき、父が宣言を撤回するまで泣き叫び、許しを請うことを強いられてきました。それは、父が息子を支配するための、残酷な儀式だったのです。

今回もまた、ソンは服を改め、庭にひざまずき、父の許しを請い始めます。

その頃、盟約書の行方を追うキム・テクの魔の手は、フンボクに迫っていました。盟約書をどうすべきか苦悩したフンボクは、それを貸本屋の小説の中に巧妙に隠し、ソンに届けようとしますが…。

父に譲位の撤回を懇願し続けるソンの背後で、ある衝撃的な事件が起ころうとしていました。ソンがふと後ろを振り返ると、彼の目に信じられない光景が飛び込んでくるのでした。

『秘密の扉』第1話の感想

歴史の知識として知っていた英祖と思悼世子の親子関係が、これほどまでに複雑で、政治的な駆け引きに満ちたものであったのかと、開始早々から引き込まれました。単なる父子の感情的な確執ではなく、王座を巡る党派争いや、過去の盟約書という具体的なミステリー要素が絡み合うことで、物語に圧倒的な深みと緊張感を与えています。威厳と狂気を併せ持つ英祖を演じるハン・ソッキュの存在感、そして理想に燃える聡明な世子を体現するイ・ジェフンの瑞々しい演技の対比が見事です。なぜ父は息子を追い詰めたのか、そして息子はなぜ悲劇的な運命を辿らなければならなかったのか。その根源にある秘密の扉が開かれたばかりの今、この重厚な物語がどこへ向かうのか、じっくりと見届けたいと思います。

つづく