
感想·評価一覧
ドラマ『恋人』感想:王が民を捨てた時、「節」はどこにあるのか(ネタバレと考察)
近年の韓国時代劇の中でも、運鏡、叙事、そして物語の緩急に至るまで、極めて「高級」な作品だと感じさせる『恋人~あの日聞いた花の咲く音~』。 特に第3話と第4話で描かれた「節」を巡る問いかけは、視聴者の心に深く突き刺さるものであった。
国の操守「国節」と、王の選択
物語の舞台は、後金(後の清)が朝鮮に侵攻した「丙子の乱」の最中である。 後金の軍勢が首都・漢城に迫る中、朝廷は降伏か、徹底抗戦かで真っ二つに割れる。
斥和派(主戦派)が持ち出すのは、かつて中国大陸で起こった北宋の「靖康の変」である。この事件では、降伏を選んだ結果、皇帝をはじめとする皇族が北へ連れ去られ、国が滅びるという悲惨な結末を迎えた。彼らはその轍を踏むまいと、仁祖(インジョ)王に南漢山城での徹底抗戦を訴える。
>>続きを読む…
過酷な運命に抗う魂の輝き―『恋人~あの日聞いた花の咲く音~』に寄せて
歴史ロマンスというジャンルは、ともすれば甘美な恋愛模様のみに終始しがちである。しかし、ナムグン・ミンとアン・ウンジンが主演を務める『恋人~あの日聞いた花の咲く音~』は、その枠を大きく超え、丙子の乱という未曾有の国難に翻弄された人々の壮絶な生、特に一人の女性の尊厳を巡る物語を深く描き出し、観る者の心を強く揺さぶる。
物語の中心にいるのは、両班の令嬢として何不自由なく育ったユ・ギルチェだ。 彼女の人生は、清の侵攻によって一変する。捕虜として清に連行されたギルチェは、想像を絶する苦難を経験する。彼女が捕虜となった背景には、両班の女性ゆえに高額な身代金が見込めるという経済的な理由と、清へ渡す捕虜の頭数を満たさねばならないという朝鮮政府の事情があった。戦争と政治の非情な取引の犠牲となり、彼女は故郷から遠く離れた地で奴隷としての日々を強いられる。
>>続きを読む…