ヤクザ稼業に身を置きながらも、心の中では詩人になることを夢見る男、ソクチョル。彼の物語は、なんとも衝撃的なシーンから幕を開けます。冒頭、ソクチョルはバス停で初恋の相手ミヨンを待っている最中、何者かに刺されてしまうのです。「結局こうなる運命だったのか…」とつぶやく彼の姿に、一体何があったのかと引き込まれずにはいられません。
物語は少し時間を遡ります。ソクチョルは三代続くヤクザ一家の長男ですが、その稼業に嫌気がさしており、本当は小説家や詩人になりたいという夢を持っていました。こっそり詩のワークショップに参加するも、その風貌からすぐに正体がバレてしまい、周囲から引かれてしまうという切ない一面も。そんな彼は、ヤクザ稼業から足を洗うことを決意します。しかし、組織を抜けるための最後の仕事として、再開発に反対する住民たちの土地を取り戻すという厄介な案件を押し付けられてしまうのでした。
一方、ソクチョルの家庭も問題だらけ。ギャンブルに溺れた姉のソッキョンは、なんと家の権利書を失い、息子を実家に預けたまま行方をくらましています。そんな中、看護師として働く妹のソッキが、ソクチョルにキムチを届けてほしいと頼んだことが、彼の運命を大きく動かします。
妹の働く病院を訪れたソクチョルは、そこで偶然にも初恋の相手ミヨンと再会します。彼女はYouTubeで自作曲を公開するミュージシャンでしたが、極度のステージ恐怖症に悩まされ、舞い込んできたライブのオファーも断ってしまったばかり。実は、ミヨンはソクチョルの妹ソッキの友人で、経済的にも困窮し、助けを求めて連絡してきたのでした。学生時代、二人は互いに想いを寄せていましたが、ある日ミヨンが突然姿を消してしまったという過去があったのです。
再会をきっかけに、二人は再び心を通わせていきます。ミヨンはオーディションに挑戦するも、大勢の観客を前に声が出なくなり、チャンスを逃してしまいます。そんな彼女の苦しみを知ったソクチョルは、彼女が母親のいる老人ホームで歌う機会をそっと作り、彼女が自分自身を表現できるよう優しく後押しします。いじめられた過去の記憶に苦しみながらも、ミヨンはなんとか短いパフォーマンスをやり遂げるのでした。
そんな穏やかな時間も束の間、物語は再び急展開を迎えます。妹のソッキから、失踪していた姉ソッキョンの居場所が分かったとの連絡が入ります。姉の友人が偶然にもソッキの病院を訪れたことで、彼女がとある賭博場で働いていることが判明したのです。
ソクチョルとソッキは、姉を連れ戻すために賭博場へ乗り込みます。しかし、当然ながらすんなりとはいきません。賭博場のオーナーと手下たちが襲い掛かり、店内は大乱闘に。その混乱の最中、オーナーが妹のソッキに危害を加えようとした瞬間、それまで無気力だった姉のソッキョンが激昂。渾身の力でオーナーに頭突きを食らわせたところで、第1話は幕を閉じます。
『優しい男の物語』第1話の感想
ヤクザでありながら詩を愛するという、主人公ソクチョルのギャップが非常に印象的な初回でした。彼の根底にある優しさが、初恋の相手ミヨンと再会したことで、より鮮明に描き出されていきます。ミヨンが抱えるステージ恐怖症という心の傷に対し、決して無理強いせず、彼女自身の力で一歩を踏み出せるように寄り添う姿は、タイトル通りの「優しい男」そのものです。しかし、彼の周りには家族の問題や組織のしがらみといった、一筋縄ではいかない現実が渦巻いています。特に、ラストの賭博場での乱闘シーンは、彼の穏やかな日常が長くは続かないことを予感させました。優しさと暴力、夢と現実という対照的な要素がどのように絡み合っていくのか、今後の物語から目が離せません。
つづく