あらすじ

蜀漢の重臣・李厳(りげん)の失脚により、第一次北伐は中止に追い込まれる。しかし、その裏では楊儀(ようぎ)や馮膺(ふうよう)らによる新たな謀略が渦巻いていた。一連の事件の黒幕という濡れ衣を着せられ、死罪を宣告された陳恭(ちんきょう)。親友を救うため奔走する荀ク(じゅんく)は、やがて驚くべき真相にたどり着く。蜀漢の未来と友への信義を懸けた男たちの諜報戦は、誰も予測しえなかった衝撃の結末を迎える。果たして、彼らを待ち受ける運命とは。壮大な物語、堂々の完結。

ネタバレ

三国時代を舞台に、名もなき諜報員たちの壮絶な戦いを描いてきた『風起隴西』も、いよいよ最終回。息を飲む展開の連続でしたが、果たして陳恭(ちんきょう)と荀ク(じゅんく)、そして蜀漢の運命はどこへ行き着くのでしょうか。涙なくしては見られない、衝撃と感動の結末を、熱量たっぷりにお届けします!

李厳(りげん)の失脚と、楊儀(ようぎ)の暗躍

北伐の失敗と自らの失脚を悟った李厳(りげん)は、単騎で逃亡を図りますが、それは既に楊儀(ようぎ)の描いた筋書き通りでした。楊儀が差し向けた馬岱(ばたい)の軍勢に行く手を阻まれた李厳は、なすすべなく剣を捨て、諸葛亮(しょかつりょう)への面会を求め絶叫します。

この一件により、第一次北伐は志半ばで終わりを告げ、諸葛亮(しょかつりょう)は成都へと引き返すことになりました。そして、諸葛亮のもとに参上した楊儀は、用意していた「証拠」を突きつけ、一連の事件の黒幕は陳恭(ちんきょう)であると断じるのです。曰く、陳恭は魏の間諜・柳瑩(りゅうえい)を李厳の屋敷に送り込み、郭淮(かくわい)と密通して蜀漢の軍事機密を流し、五仙道を使って北伐の生命線である食糧を断とうとした、と。捕らえられた者の証言も相まって、陳恭の罪は揺るぎないものとされてしまいました。

諸葛亮の苦悩と決断

しかし、百戦錬磨の諸葛亮は、この報告に違和感を覚えます。彼は、楊儀が政敵である李厳を排除するために、自分が設立した諜報機関・司聞曹を政争の道具として利用したことを見抜いていました。諸葛亮は「国を興すための組織を、内輪の争いに使うとは何事か!」と激怒し、楊儀の行き過ぎた行いを厳しく叱責します。

その一方で、諸葛亮は李厳とも面会します。李厳はこれまでの不満をぶつけますが、諸葛亮は、楊儀たちの計略を見抜けなかった自らの非を認めつつも、李厳が主張する南征(対・東呉政策)は決して認められないと説きます。呉と手を結び魏と対峙すれば、蜀漢に三十年の平和がもたらされる。しかし、呉と争えば、その隙を魏に突かれ、国は滅びるだろうと。その言葉に、李厳は諸葛亮の真意を悟りますが、時すでに遅く、彼はすべての官職を剥奪され、流罪となるのでした。

陳恭と荀ク(じゅんく)、涙の最後の対面

馮膺(ふうよう)は司聞曹に復帰し、荀ク(じゅんく)にはこの一件から手を引くよう命じます。陳恭に会うこともできず、一ヶ月が過ぎた頃、荀ク(じゅんく)の元に楊儀が現れ、陳恭の判決が「斬首の上、さらし首」という最も重い刑に決まったことを告げます。

荀ク(じゅんく)は必死の思いで、陳恭との最後の面会を果たします。重い枷をはめられた親友の姿に、荀ク(じゅんく)は「なぜだ!」と怒りをぶつけます。陳恭は「父の仇を討つためだった」と淡々と語りますが、誰よりも陳恭を理解する荀ク(じゅんく)は、それが本心ではないことを見抜いていました。

荀ク(じゅんく)は、これまでの出来事を必死に反芻し、ある真実にたどり着きます。自分が敵地で矢を受けたあの日、あれは陳恭が自分を殺さずに済むよう、林良(りんりょう)と示し合わせて放った毒のない矢だったこと。そして、自分が負傷して逃げ出したことで、本来は馮膺(ふうよう)が罪を被るはずだった計画が破綻し、陳恭がすべての罪を背負うしかなくなったこと。「俺のせいでお前は…!」真実を悟った荀ク(じゅんく)は、涙ながらに崩れ落ちるのでした。

友への誓いと、処刑の日

陳恭は、荀ク(じゅんく)を救った時からこの結末を覚悟していました。彼は涙にくれる親友を慰め、「もうこの件を追うな」とだけ告げます。

処刑当日。荀ク(じゅんく)、楊儀、馮膺らが見守る中、その時は刻一刻と迫ります。馮膺は荀ク(じゅんく)に、諸葛亮からの命令として、東呉へ渡り新たな情報網を築くよう伝えました。荀ク(じゅんく)はただ一つ、「陳恭の墓を建て、翟悅(たくえつ)と共に葬ってほしい」と馮膺に強く頼むのでした。

そして、ついにその時が訪れます。陳恭は蜀漢の旗を静かに見上げると、親友である荀ク(じゅんく)に、最後の穏やかな笑みを向けました。そして、刀は無情にも振り下ろされたのです。

明かされる真実、そして未来へ

東呉へ向かう船の上。荀ク(じゅんく)は、今は亡き友と、その妻であり自らの義妹でもあった翟悅(たくえつ)の墓に酒を捧げます。

その姿を見ていた同行者の林良(りんりょう)は、陳恭から託されていた最後の伝言を語り始めます。荀ク(じゅんく)が地下道から脱出できたのは、陳恭が意図的に仕組んだことでした。最愛の妻・翟悅を失ったあの日から、陳恭はすでに死を決意していたのです。自分の命と引き換えに馮膺を救い、蜀漢の平和を守り抜くこと。それこそが、陳恭が命を懸けて成し遂げようとした、本当の計画だったのでした。

友の真の心を知った荀ク(じゅんく)の目から、一筋の涙がこぼれ落ちます。しかし、その表情はどこか晴れやかでした。遠くには、新たな任務の地である東呉の岸が見えています。荀ク(じゅんく)は気持ちを奮い立たせ、未来へと続く新たな戦いへと、力強く歩みを進めていくのでした。

『風起隴西(ふうきろうせい)-SPY of Three Kingdoms-』最終回 第24話の感想

本作の結末は、単なる勧善懲悪では決して語れない、深く重い余韻を残しました。陳恭の選んだ道は、究極の自己犠牲であり、国と友、そして亡き妻への愛の形だったのでしょう。彼が守り抜いたものの大きさを思うと、胸が締め付けられます。一方で、その犠牲の上に未来を託された荀ク(じゅんく)の姿は、悲しみの中にも確かな希望を感じさせました。権力者たちの思惑が渦巻く中で、名もなき間諜たちの信念と絆を描き切った脚本は見事としか言いようがありません。諸葛亮の理想と現実の狭間での苦悩や、楊儀、馮膺といった人物たちの複雑な立場も丁寧に描かれ、物語に圧倒的な深みを与えていました。見終わった後、登場人物一人ひとりの人生に思いを馳せてしまう、忘れがたい最終回でした。

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