あらすじ
蜀漢の重臣・李厳(りげん)を失脚させるための最終計画がついに実行に移される。陳恭(ちんきょう)は、長きにわたる因縁の相手である魏の間諜・黄預(こうよ)との直接対決に臨み、復讐の刃を向ける。一方、計画の歯車が狂い始めたことに気づいた李厳は、次々と予期せぬ事態に見舞われ、絶体絶命の窮地に立たされていく。すべての計略が成功し、陳恭と楊儀(ようぎ)が勝利を確信したその時、ある人物が彼らの前に現れ、事態は誰もが予想しなかった方向へと転がっていく。
ネタバレ
蜀漢を揺るがす大計画の最終局面、まさに息をのむ展開の連続でした。今回は、陳恭(ちんきょう)が仕掛けた壮大な反間計のフィナーレと、その先に待つ新たな悲劇の幕開けが描かれます。
最終計略、始動
物語は、楊儀(ようぎ)と陳恭たちが、驃騎(ひょうき)将軍・李厳(りげん)を失脚させるための最終打ち合わせから始まります。李厳(りげん)は手練れの兵を握っているため、ただ告発するだけでは不十分。彼自身に「謀反」の罪を確信させ、自ら逃亡するように仕向ける、というのが作戦の骨子です。魏延(ぎえん)が食糧輸送と五仙道への奇襲を担当し、黄預(こうよ)たちを一網打尽にする手はずも整いました。
その夜、ついに柳瑩(りゅうえい)が動きます。黒装束で李厳(りげん)の屋敷に忍び込み、密書が隠された箱を狙うのですが、物音で守衛に気づかれてしまいます。しかし彼女は冷静でした。とっさに火を放って箱ごと証拠を焼き払い、窓から脱出。見事な仕事ぶりです。
追い詰められる李厳
李厳は、陳恭からの「堤防決壊、食糧水没」という吉報を待っていましたが、もたらされたのは「書斎が燃え、密書が灰になった」という悪夢のような知らせでした。これで蜀帝・劉禅(りゅうぜん)への弁明の証拠は消え、時を同じくして柳瑩(りゅうえい)も姿を消したことで、李厳は完全にパニックに陥ります。彼はすぐさま全軍に江州(こうしゅう)から精鋭部隊を撤退させるよう命令。この判断が、彼の運命を決定づけることになります。
一方、河堤で信号を待っていた五仙道の黄預。ついに燭龍(しょくりゅう)からの信号が上がりますが、それは蜀軍による攻撃開始の合図でした。前後を挟み撃ちにされ、すべてが陳恭の罠だったと悟ったときにはもう手遅れ。陳恭は、亡き妻・翟悅(たくえつ)の形見の剣を抜き、黄預との一騎打ちに臨みます。剣が黄預の胸を貫いた瞬間、陳恭はようやく妻の無念を晴らすことができたのでした。
時を同じくして、李厳の計画に加担していた狐忠(こちゅう)も、馬岱(ばたい)によって捕縛。外堀はすべて埋められ、いよいよ大詰めの時が迫ります。
そして、あの男が帰ってきます。暗い穴の底で死の淵をさまよっていた荀ク(じゅんく)が、傷ついた足を引きずりながらも、ついに地上へと生還したのでした。
友との決別
屋敷に戻ってきた陳恭に対し、李厳は必死に状況を問いただします。陳恭は「計画通り、堤防は決壊しました」と嘘の報告で李厳を安心させますが、ここで衝撃の事実が明かされます。李厳は、馮膺(ふうよう)と柳瑩(りゅうえい)が実は魏のスパイであり、燃えた箱には密詔だけでなく、将軍たちの印鑑証明書まで入っていたと告白。もはや退路はないと絶望します。
李厳が誇る精鋭部隊の強さを知る馬岱は、速戦即決を進言。楊儀も、蜀漢同士の本格的な内戦は避けたいものの、圧力をかけるしかないと覚悟を決めます。
進退窮まった李厳に、陳恭は最後の一手を授けます。「弓を引いたらもう戻れません。今すぐ成都へ向かい、陛下に直接真意を訴えるのです。私が兵符を預かり、南鄭で三刻(約6時間)の時間を稼ぎます」と。二度にわたり自分を救ってくれた李家の恩義に、李厳は涙を流し、この策を受け入れて密かに南鄭を脱出。これですべての計略は成功しました。
勝利の先に待つもの
楊儀の軍が南鄭に入城し、屋敷で静かに座す陳恭と対面します。壮大な反間計の成功を喜び合う二人。しかし、その瞬間、戸が荒々しく開かれます。そこに立っていたのは、司聞曹の兵を率いた荀ク(じゅんく)でした。彼は、親友であるはずの陳恭を指さし、逮捕を命じます。
「甘すぎるぞ」と楊儀は嘆きます。ここで計画が露見すれば、馮膺(ふうよう)の死も、これまでのすべての犠牲も水泡に帰す。翟悅(たくえつ)を失い、今また親友の荀ク(じゅんく)まで手にかけなければならないのか…。万策尽きたかに見えたその時、陳恭は静かに口を開き、楊儀に最後の、そして究極の策を打ち明けるのでした。
『風起隴西(ふうきろうせい)-SPY of Three Kingdoms-』第23話の感想
今回のエピソードは、陳恭という男の孤独と覚悟が胸に突き刺さる回でした。すべては蜀漢のため、大義のためと、彼は親友を欺き、恩人を罠にかけ、自らの手を汚し続けます。その策略が見事に結実し、勝利を手にしたかに見えた瞬間、最大の障壁として立ちはだかるのが、唯一生き残らせようとした親友・荀ク(じゅんく)であるという運命の皮肉。このやるせない構図に、深く考えさせられました。大義のために個人の幸福や人間関係が犠牲になるのは、この時代の非情さなのでしょう。しかし、それでもなお友の命だけは守ろうとする陳恭の姿に、彼の人間としての最後の砦が見えた気がします。馮膺(ふうよう)や翟悅(たくえつ)の死を乗り越えた彼が、最後にどんな策でこの窮地を切り抜けるのか。物語の結末から目が離せません。
つづく