あらすじ
諸葛亮(しょかつりょう)が進める北伐の裏で、蜀軍の生命線である兵糧補給を断つという恐るべき陰謀が進行していた。計画の駒となった陳恭(ちんきょう)は、成功のために大きな代償を払うことを強要される。それは、義兄弟の契りを交わした親友・荀ク(じゅんく)の命を狙うという、あまりにも非情な任務だった。
親友に矢を向けなければならない陳恭の苦悩と、突如として命の危機に瀕した荀ク(じゅんく)の運命やいかに。一方で、李厳(りげん)の秘密を探る柳瑩(りゅうえい)にも危険が迫る。それぞれの正義と策謀が激しくぶつかり合い、物語はさらに緊迫の度合いを増していく。
ネタバレ
物22 話は魏の陣営から始まります。蜀の内部に潜むスパイ「燭龍(しょくりゅう)」が、東呉の動きを口実に李厳(りげん)を動かし、蜀軍の生命線である兵糧補給を断たせようとしている――。その見事な計略に、郭淮(かくわい)と郭剛(かくごう)は感嘆の声を漏らします。郭淮は陳倉(ちんそう)での一ヶ月に及ぶ籠城を決意し、全責任を負う覚悟を見せました。
その頃、蜀の司聞曹では、荀ク(じゅんく)が衝撃の事実にたどり着いていました。義兄弟である陳恭(ちんきょう)の父は、あろうことか上司である馮膺(ふうよう)が魏に情報を漏らしたことで犠牲になったというのです。親友と、その父の仇。このねじれた関係を知った荀ク(じゅんく)の脳裏に、これまでの陳恭の不可解な行動が次々と浮かび上がり、疑念は確信へと変わっていきます。
そんな中、荀ク(じゅんく)のもとに「西郷の関所に五仙道の残党が出現した」との報せが舞い込みます。しかも、そこには五仙道の大祭酒・黄預(こうよ)の姿もあるというのです。黄預がこのタイミングで現れるのは偶然ではないと直感した荀ク(じゅんく)は、すぐさま部隊を率いて関所へ急行します。
しかし、それは陳恭と黄預が仕掛けた罠でした。関所へ向かう道で待ち伏せていた陳恭は、黄預から手渡された弩(いしゆみ)を構えます。その先には、何も知らずに進んでくる荀ク(じゅんく)の姿が…。もはや選択の余地はありません。陳恭は歯を食いしばり、引き金を引きます。放たれた矢は、真っ直ぐに荀ク(じゅんく)の胸へと突き刺さりました。
荀ク(じゅんく)は部下の裴緒(はいしょ)の機転で、かろうじて一命をとりとめ、森の中に隠されます。一方、李厳(りげん)のもとを訪れた陳恭は、魏との連携が取れたことを報告。荀ク(じゅんく)を手にかけたことすら、李厳(りげん)は「大業を成すためには非常の手段も必要だ」と慰めるのでした。李厳の次の指令は、10日後に出発する第一次兵糧輸送部隊を、前線に到着させないこと。陳恭の任務は、さらに過酷さを増していきます。
陳恭は、荀ク(じゅんく)を密かに匿い、治療を施させていました。しかし、計画の障害になりかねない荀ク(じゅんく)を生かしておくべきではないと進言する者も現れます。スパイとして生きることに心身ともに疲れ果てていた陳恭ですが、「荀ク(じゅんく)のような人間は、この世にそう多くはいない。彼は生きるべきだ」と、その命を守ることを強く願うのでした。
その間も、諸葛亮(しょかつりょう)率いる北伐軍は魏の将軍・王双(おうそう)を討ち取るなど戦果を挙げていましたが、やはり兵糧の補給には一抹の不安を抱えていました。
時を同じくして、李厳の秘密を探ろうとする柳瑩(りゅうえい)は、彼の書斎への侵入を試みますが、侍女に見つかってしまい、やむなく彼女を殺害。彼女もまた、後戻りのできない道へと足を踏み入れてしまいます。
そして、暗い洞窟に監禁されていた荀ク(じゅんく)は、意識を取り戻します。壁の石がもろくなっていることに気づいた彼は、執念で掘り進め、ついに隠された抜け道を発見するのでした…。
『風起隴西(ふうきろうせい)-SPY of Three Kingdoms-』第22話の感想
今回のエピソードは、登場人物たちが背負う宿命の重さを改めて突きつけられる回でした。特に、義兄弟である荀ク(じゅんく)を自らの手で射抜かなければならなかった陳恭の姿は、見ていて胸が張り裂けそうでした。国のため、大義のためと頭では理解していても、親友を手にかけ、その上で彼の命を必死に守ろうとする矛盾した行動に、陳恭の人間的な苦悩が凝縮されています。スパイという非情な仮面の下で、彼の心がいかに引き裂かれているかが痛いほど伝わってきました。
一方で、裏切られ、深手を負わされてもなお、真実を追い求めることを諦めない荀ク(じゅんく)の不屈の精神もまた、この物語の力強い光です。彼の存在が、陰謀渦巻く暗い世界に一条の希望をもたらしているように感じます。李厳の陰謀、柳瑩(りゅうえい)の悲壮な覚悟、そして諸葛亮が抱える北伐の重圧。それぞれの物語が複雑に絡み合い、単純な善悪では割り切れない人間ドラマの深みを生み出しており、物語の結末が全く読めません。
つづく