あらすじ
蜀漢の諜報機関・司聞曹を率いる馮膺(ふうよう)が、魏のスパイ「燭龍(しょくりゅう)」としてついに逮捕された。長年の捜査を実らせた荀ク(じゅんく)だったが、あまりに手際の良い逮捕劇に、ある疑念を抱き始める。一方、馮膺の後任として重責を担うことになった陳恭(ちんきょう)は、彼の補佐役である楊儀(ようぎ)と共に、ある人物と面会する。そこで陳恭は、今回の事件の裏に隠された、自らの想像を絶する壮大な計画の存在を知らされることになる。蜀漢の命運を賭けた謀略が、今、最終段階へと動き出す。
ネタバレ
ついに、蜀漢の諜報機関・司聞曹(しぶんそう)を揺るがす大物が動きました。第21話は、荀ク(じゅんく)が長らく追い続けてきた魏のスパイ「燭龍(しょくりゅう)」の正体とされる馮膺(ふうよう)を逮捕する、衝撃的なシーンから幕を開けます。
馮膺(ふうよう)、逮捕される
荀ク(じゅんく)が突きつけたのは、馮膺(ふうよう)が昨夜したためたばかりの蜀軍の機密情報が入った箱。もはや言い逃れはできず、馮膺は「他の者には関係ない」とだけ言い残し、潔く連行されていきました。
この一報は、北伐の途上にあった諸葛亮(しょかつりょう)の元にも届きます。報告に来た李厳(りげん)は気が気ではありませんが、諸葛亮は「馮膺は私が抜擢した男だ」と、彼の裏切りを信じようとはしません。あまりにも出来すぎた状況証拠に、何か裏があると直感しているのです。しかし、大戦を前にして、審問は戦後に行うと決定。ひとまず、馮膺が捕まったことで空席となった司聞曹のトップには陳恭(ちんきょう)が就き、諸葛亮の腹心である楊儀(ようぎ)が補佐役として南鄭に残ることになりました。
一方、宿敵を捕らえたにもかかわらず、荀ク(じゅんく)の心は晴れませんでした。あまりにもスムーズに進んだ逮捕劇。抜け目のない馮膺が、壁の灰や机の木片、さらには自筆の密書といった決定的な証拠をこれほど無防備に残すだろうか?荀ク(じゅんく)は、これが馮膺自身が仕組んだ罠、つまり自ら罪を着ようとしているのではないかと疑い始めるのです。
明かされる「計中の計」
その頃、陳恭は囚われた馮膺を馬車に乗せ、楊儀のもとへと連れて行きます。そこで、ついにこの物語の根幹をなす、恐るべき計略の全貌が明らかになりました。
実は、馮膺と楊儀は、魏の郭淮(かくわい)が進める「青萍(せいへい)計画」の真の狙いを見抜いていました。そして、その計画を逆手に取り、陳恭を魏の心臓部に送り込むための壮大な「計中の計」を仕組んでいたのです。馮膺が「燭龍」として逮捕されることは、陳恭が魏の信頼を完全に得るための、自らを犠牲にした捨て身の策でした。荀ク(じゅんく)の執念の捜査すら、この計略をリアルに見せるための重要な駒として利用されていたのです。
馮膺は、己の汚名と引き換えに漢室復興を成し遂げようとしていました。そして、陳恭に「生き抜け」と、その重い使命を託します。
友を手にかけろという非情な命令
しかし、計略は最終段階で最も過酷な局面を迎えます。陳恭は、魏の五仙道(ごせんどう)の残党・黄預(こうよ)から、最後の忠誠の証として「荀ク(じゅんく)を自らの手で殺せ」と命じられたことを打ち明けます。
楊儀と馮膺は、非情にも「大義のためだ」と陳恭に決断を迫ります。荀ク(じゅんく)は計略における役割を終えた。これ以上彼が真実を追えば、この国家を揺るがす計略そのものが露見しかねない。多くの人々の犠牲を無駄にしないため、そして陳恭が魏で潜伏し続けるという最重要任務を遂行するためには、荀ク(じゅんく)の命はもはや障害でしかない、と。
親友をその手にかけなければならないという、あまりにもむごい選択。すべてを理解しながらも、陳恭の目からは涙がこぼれ落ちるのでした。
さらに、この計略の最大の障害となる、皇帝・劉禅(りゅうぜん)が李厳(りげん)に与えた密詔を破壊するため、陳恭は柳瑩(りゅうえい)に危険な任務を命じます。彼女に司聞曹の最高級の令牌を渡し、「任務を終えたら、必ず生き延びろ」と告げる陳恭の姿もまた、悲壮感に満ちていました。
物語は、諸葛亮と郭淮が前線で対峙する場面で締めくくられます。個人の情と国家の大義が複雑に絡み合い、誰が敵で誰が味方なのか、もはや誰にも分からない。壮大な謀略は、血と涙の先に一体何をもたらすのでしょうか。
『風起隴西(ふうきろうせい)-SPY of Three Kingdoms-』第21話の感想
今回のエピソードは、これまで張り巡らされてきた伏線が一つの壮大な絵図として姿を現した、まさに圧巻の回でした。馮膺の自己犠牲と、彼が陳恭に託した「生き抜け」という言葉の重みが胸に突き刺さります。個人の幸福や友情、そして命すらも、「漢室復興」という大義の前では駒の一つとして扱われるスパイの世界の非情さが、これでもかと描かれていました。
特に、親友である荀ク(じゅんく)を殺すよう迫られる陳恭の葛藤は、見ていて息が詰まるほどでした。正義を信じて突き進んできた荀ク(じゅんく)自身が、知らぬ間に巨大な計略の一部に組み込まれていたという構図は、あまりにも皮肉で悲劇的です。誰の正義が本物で、誰の犠牲が報われるのか。緻密に練り上げられた脚本と、登場人物たちの深い心理描写が、物語に圧倒的な深みを与えています。この重厚な人間ドラマこそが、本作の真骨頂だと改めて感じさせられました。
つづく