人類の脅威である地球三体組織から、三体文明に関する機密情報を奪取するため、ついに最終作戦が決行される。作戦名は「古筝」。汪淼(ワン・ミャオ)が開発した最先端のナノマテリアル「飛刃」を使い、ETOの拠点である船「審判日号」を拿捕する計画だ。作戦の舞台はパナマ運河。常偉思(チャン・ウェイスー)の指揮のもと、世界中の精鋭が集い、静かにその時を待つ。息をのむような緊張感の中、人類の未来を左右する作戦の火蓋が切って落とされる。しかし、その先には誰も知らない三体世界の真実が待ち受けていた。

「三体」あらすじネタバレ29話

ついに、運命の「古筝作戦」が決行される時が来ました。史強(シー・チアン)が立案したこの大胆不敵な作戦は、常偉思(チャン・ウェイスー)率いる作戦司令部の承認を得て、アジア戦区が総指揮を執ることになります。技術的な要は、もちろん汪淼(ワン・ミャオ)と彼のナノテクセンター。人類の未来を賭けたこの極秘作戦は、その美しくも恐ろしい響きから「古筝」と名付けられました。

舞台はパナマ運河。作戦を前に、汪淼(ワン・ミャオ)の心は揺れていました。いくら敵対組織の船とはいえ、そこにいる人々もまた人間。彼らの命を奪うことに、科学者としての良心が痛みます。しかし、その懸念はすぐに吹き飛びます。ターゲットである船「審判日号」の乗組員は、単なる船員ではありませんでした。彼らは、過去に軍人の子供を残忍な手口で殺害した者も含む、凶悪なテロリスト集団だったのです。船内では、組織から抜けようとした者をリーダーの恩佐(エンゾ)が「これは救済だ」と嘯きながら惨殺するなど、日常的に死体がゴミのように川へ投棄されていました。彼らに情けをかける余地など、どこにもなかったのです。

「古筝」の名は、作戦内容そのものを的確に表していました。汪淼が開発したナノマテリアルの極細ワイヤー「飛刃」を、運河の両岸に琴の弦のように張り巡らせる。そして、何も知らずに通過する「審判日号」を、船体もろとも乗員ごとスライスしてしまうという、まさに殺人于無形(殺人は無形のうちに行われる)の利器です。

刻一刻と、「審判日号」が「琴」の張られたエリアに近づいてきます。双眼鏡を握る汪淼の手は、緊張で震えが止まりません。指揮官が「すべてはすぐに終わる」と声をかけますが、その言葉が耳に入っているのかどうか。

そして、その瞬間が訪れます。船の先端がナノワイヤーの領域に侵入したかと思うと、甲板にいた人影が崩れ落ちました。次の瞬間、船全体が猛スピードでワイヤーを通過し、まるで巨大なパンのスライサーにかけられたかのように、船体は薄く、無数に切り刻まれていきました。伊文斯(エヴァンズ)を含む全ての乗員は、何が起きたのかを理解する間もなく、船と共に四分五裂。轟音とともに、「審判日号」は鉄の残骸となって崩れ落ちました。

作戦は成功。汪淼の心に重くのしかかっていた石が、ようやく下りました。指揮官は固い握手を交わし、「いつか君の古筝の演奏を聴きたいものだ」と告げます。すぐにヘリコプターと部隊が現場に急行し、火災を鎮圧しながら、作戦の最終目的である「三体世界の情報」の回収を開始しました。

一方、作戦本部では葉文潔(イエ・ウェンジエ)(青年期)への聴取が続いていました。彼女は、自分も三体世界の詳しいことは知らず、それを本当に理解しているのは伊文斯ら降臨派の核心メンバーだけだと語ります。常偉思(チャン・ウェイスー)から「ではなぜ、彼らが人類を救えると信じたのか?」と問われると、星間航行を可能にするほどの科学力があれば、世界を変える力もあるはずだと考えた、と答えました。しかし、それは科学的根拠のない、希望的観測に過ぎなかったと、彼女自身も認めるのでした。回収された伊文斯と三体世界の通信データは、実に28ギガバイト。葉文潔(イエ・ウェンジエ)(青年期)が信じていた非効率な通信方法では考えられない情報量であり、三体ゲームがいかに彼らの想像に基づいて作られていたかを物語っていました。

常偉思は、この謎を解き明かすため、汪淼と史強(シー・チアン)に再び三体ゲームへログインするよう依頼します。二人がログインすると、そこには葉文潔(イエ・ウェンジエ)(青年期)の姿もありました。そして彼らは、地球三体組織が想像で作り上げた三体人の姿と、衝撃的な物語を目撃します。

それは、葉文潔(イエ・ウェンジエ)(青年期)からのメッセージを最初に受信した、三体世界の「監視員」の物語でした。彼は、自分の文明の冷酷さに絶望し、地球からのメッセージに「応答するな。応答すれば、我々があなたたちの世界を奪う」という警告を送ったのです。彼は、自分の人生を無駄にしないため、母なる文明を裏切りました。三体文明の地球侵略計画とは、単なる占領ではありません。彼らは地球に移住した後、人類の生殖を完全に禁止し、種として根絶やしにするつもりだったのです。この計画に反発し、地球こそが希望だと信じた監視員は、三体世界における「救済派」でした。汪淼、史強、そして葉文潔は、その監視員が「裏切り者」として裁かれる様を、ただ黙って見つめることしかできませんでした。

『三体』第29話の感想

「古筝作戦」の映像化は、原作を読んだ際の想像を遥かに超えるものでした。ナノワイヤーが巨大な船をチーズのようにスライスしていく光景は、一種の様式美すら感じさせる一方で、その中で命が失われていく無慈悲さに息を呑みます。この作戦の実行者である汪淼が背負うことになるであろう、科学者としての倫理的な重圧がひしひしと伝わってきました。

しかし、このエピソードの真骨頂は後半の三体ゲームのパートでしょう。これまで一枚岩だと思われていた三体文明の中に、人類に警告を発した「監視員」という存在がいたことが明かされます。彼が所属する「救済派」の存在は、この物語が単純な侵略者と抵抗者という構図ではないことを示唆しています。敵である三体世界にも多様な思想があるという事実は、物語に計り知れない奥行きを与え、今後の展開への知的な興味を強く掻き立てられました。

つづく