あらすじ
北秦との決戦を前に、韓燁(かんよう)は自らを囮とし、敵をおびき寄せる危険な策を実行に移します。決戦の地となった青南山では、大靖と北秦の軍が激しく衝突。戦いは熾烈を極め、韓燁は絶体絶命の窮地に立たされます。一方、その知らせを待つ任安楽(じんあんらく)。彼女が戦場に駆けつけた時、あまりにも過酷な現実が待ち受けていました。愛と宿命が交錯する、涙なくしては見られない悲劇の幕開けとなる衝撃的なエピソードです。
ネタバレ
『安楽伝』第35話は、物語の核心を揺るがす、あまりにも悲痛なエピソードです。ハンカチの準備はよろしいでしょうか。それでは、心をえぐられるような展開を振り返っていきましょう。
韓燁(かんよう)、最後の賭けへ
別れの予感は、苑琴(えん きん)が溫朔に手渡したお守りから始まります。靖南の長思花が刺繍されたその巾着を、韓燁(かんよう)はどこか寂しげに見つめていました。
北秦との決戦を前に、韓燁は一つの大きな決断を下します。それは、溫朔に彼の本当の出自――彼こそが帝家の生き残り、任安楽(じんあんらく)の実の弟・帝燼言であると告げることでした。衝撃の事実に溫朔は激しく動揺しますが、帝家軍の墓前で民の安寧(あんねい)を誓った韓燁の姿を思い出し、彼と共に進むことを決意します。
韓燁の策は、自らを最大の囮とすることでした。「帝家軍は青南山にあり」という偽の情報を流し、北秦軍と、帝家を敵視する梅花内衛をおびき寄せます。青南山の頂に立った韓燁の目に映ったのは、八万の帝家軍の墓碑と、その傍らで彼らを守るように立つ妹・安寧(あんねい)公主(あんねいこうしゅ)の墓でした。彼はこの時、妹がなぜこの地で眠ることを選んだのか、その真意を悟ったのかもしれません。
青南山の死闘と、あまりにも悲しい結末
韓燁の思惑通り、北秦軍と梅花内衛が青南山に殺到します。そこにいたのが太子その人であることに梅花内衛は驚愕しますが、今は国難の時。彼らは私怨を捨て、太子を守るために共闘を誓います。
しかし、戦況は過酷を極めます。北秦の将軍・冷北(冷北 (れい ほく))の卑劣な罠にかかり、韓燁は毒粉によって視力を奪われてしまいます。目が見えない中でも奮戦する韓燁でしたが、無数の矢を浴び、ついには右膝、内腑、そして心臓近くの急所を射抜かれてしまいました。
もはやこれまでと悟った韓燁は、溫朔に任安楽(じんあんらく)への遺言を託します。
「私の生涯の願いは、大靖の永きにわたる安寧と、民の安楽だ。どうか、私の代わりにその世を見届けてほしい」
そして、満身創痍の体で立ち上がると、敵将・冷北(冷北 (れい ほく))に向かって最後の言葉を放ちます。
「大靖の太子は、死して負けず。滅びて敗れず!」
その言葉と共に、韓燁は自ら崖下へと身を投じ、その姿は深い霧の中へと消えていきました…。
知らせを受け、息を切らして駆けつけた任安楽(じんあんらく)が目にしたのは、血と骸に染まった地獄絵図でした。愛する人の死を知り、悲しみのあまり後を追おうとする彼女を、溫朔が必死に引き止めます。
「姉上! 私が帝燼言です!」
弟の告白と、韓燁の遺言を聞いた任安楽は、その場に崩れ落ち、泣き叫ぶことしかできませんでした。
残された想いと、残酷な真実
戦いは、安寧公主(あんねいこうしゅ)と太子・韓燁というあまりにも大きな犠牲を払い、大靖の「惨勝」に終わりました。
任安楽が悲しみに暮れる中、溫朔は彼女を太子府へと連れて行きます。そこで開かれた戸棚の中にあったのは、韓燁が描き溜めていた無数の肖像画。その全てが、帝家の娘・帝梓元(ていしげん)ではなく、奔放な女海賊である「任安楽」の姿でした。
溫朔は告げます。「殿下が心から愛した人は、想像の中の帝梓元(ていしげん)ではなく、目の前にいた任安楽、あなただったのです」と。
あまりにも遅く知った、あまりにも残酷で、純粋な真実。その衝撃に、任安楽は意識を失ってしまうのでした。
『安楽伝』第35話の感想
言葉を失うとは、まさにこのことでしょう。物語が大きく動くことは予想していましたが、これほどまでに胸が締め付けられる展開になるとは思いませんでした。韓燁の自己犠牲は、単なる悲劇ではありません。彼が帝家と韓家の長きにわたる確執を断ち切るために、自らの命を懸けて打った最後の布石だったのです。その覚悟の重さに、ただただ圧倒されます。
そして何より心を揺さぶられたのは、彼が本当に愛したのが、復讐のために作られた仮面であるはずの「任安楽」だったという事実です。彼女の奔放さ、強さ、人間らしさそのものに惹かれていたという最後の告白は、任安楽にとってこれ以上ないほどの愛の証明であり、同時に、もう二度と応えることのできない、残酷な真実でもありました。彼の死によって、二人の恋はようやく真実の形を得たのかもしれません。しかし、その代償はあまりにも大きすぎます。この深い喪失感と余韻から、しばらく立ち直れそうにありません。
つづく