あらすじ

五仙道に潜入していた陳恭(ちんきょう)の妻・翟悅(たくえつ)に、最大の危機が迫ります。彼女は、ある疑いをかけられ、教主の黄預(こうよ)に捕らえられてしまいました。一方、蜀漢の諜報機関・司聞曹では、一人の高官の死をきっかけに、内部の権力闘争が再び動き出します。官職に復帰した馮膺(ふうよう)と、彼の動きを警戒する荀ク(じゅんく)。二人は見えざる敵「燭龍(しょくりゅう)」の影を追いながら、互いの腹を探り合います。愛する妻と国家への忠誠の狭間で、陳恭はあまりにも過酷な選択を迫られることになります。

ネタバレ

一方、五仙道のアジトでは、黄預(こうよ)が蜀軍の囲い込みから命からがら逃げ延びていました。彼は、燭龍から得た情報が誤っていたために、こんなにも手痛い損害を被ったと気づきます。そんな中、燭龍から新たな密書が。黄預が慎重にその暗号を解読している様子を、物陰からじっと見つめる影がありました。そう、陳恭(ちんきょう)の妻・翟悅(たくえつ)です。彼女は暗号の解読方法を盗み見ようとしますが、これが黄預の巧妙な罠でした。

実は、燭龍は黄預に「教団内にいる蜀のスパイは女だ」と伝えていたのです。翟悅(たくえつ)はまんまと罠にはまり、捕らえられてしまいます。

知らせを聞いた陳恭は、冷静を装いながらも内心の動揺を隠しきれません。拷問される妻の元へ駆けつけ、暴力を振るう黄預を制止すると、唇の動きだけで「必ず助け出す」と伝えます。しかし、翟悅の覚悟は、陳恭の想像をはるかに超えていました。

夫の正体がバレることを恐れた彼女は、突然、陳恭に向かって罵詈雑言を浴びせかけ、「私が蜀のスパイだ!」と自白するのです。愛する夫の任務を守るための、あまりにも悲しい自己犠牲…。愛する女がスパイだったと知った黄預は逆上し、翟悅に「神仙丹」という恐ろしい薬を無理やり飲ませます。この薬は、人の意識を朦朧とさせ、抵抗できなくさせる代物。黄預は、この卑劣な手で彼女から情報を引き出そうとします。

その頃、蜀漢の都では、馮膺(ふうよう)が見事に官職に復帰。彼は荀ク(じゅんく)に対し、翟悅の存在に気づいていたこと、そして白帝(はくてい)がまだ五仙道に潜入しているはずだと推測していることを打ち明けます。しかし、荀ク(じゅんく)は親友を守るため、必死にはぐらかすのでした。腹の探り合いが続く二人の関係も、見どころの一つですね。

物語の終盤、黄預は陳恭に、蜀軍の兵器設計図が保管されている「総成部」への潜入という、無謀な任務を命じます。失敗した場合の合流地点まで細かく指示し、さらに「亥の刻(夜10時頃)になったら、薬で苦しむ翟悅の姿を見に来い」と告げるのです。愛する妻が辱められるのを前に、それでも任務を遂行しなければならない陳恭。彼の胸に去来する悲憤と絶望を思うと、こちらまで胸が張り裂けそうになります。この長い夜は、二人にとってあまりにも過酷な試練となるのでした。

『風起隴西(ふうきろうせい)-SPY of Three Kingdoms-』第12話の感想

今回のエピソードは、スパイという非情な任務と、人間としての深い愛情が交錯する、非常に重厚な人間ドラマでした。特に、陳恭と翟悅の夫婦が互いを守るために下した決断には、心を強く揺さぶられます。翟悅が夫を守るために自ら罪をかぶる場面は、本作屈指の名シーンと言えるでしょう。彼女の気高さと強さに、ただただ敬服するばかりです。一方で、馮膺(ふうよう)と荀ク(じゅんく)の間の、信頼と疑念が入り混じった緊張感あふれるやり取りも、物語に一層の深みを与えています。誰が味方で誰が敵なのか、単純な二元論では割り切れない複雑な人間関係こそが、このドラマの大きな魅力だと再認識させられました。派手なアクションだけでなく、登場人物たちの繊細な心理描写によって、濃密な時間を作り上げています。

つづく