あらすじ

魏に潜入中の陳恭(ちんきょう)は、ついに妻・翟悅(たくえつ)との再会を果たしますが、彼女は絶体絶命の窮地に立たされていました。彼女は自らの覚悟を決め、陳恭に最後の重要な情報を託します。一方、蜀では、無事に釈放された馮膺(ふうよう)が、自身を裏切った者たちへの対処を始め、司聞曹内での新たな権力闘争が静かに幕を開けます。そんな中、独自の調査を進める荀ク(じゅんく)は、危険を承知である計画を実行に移すため、紫煙閣の柳瑩(りゅうえい)に協力を依頼。それぞれの思惑が複雑に絡み合い、物語は新たな局面へと突入します。

ネタバレ

悲しき再会、そして永遠の別れ

壁を乗り越え、ついに妻・翟悅(たくえつ)のもとへたどり着いた陳恭(ちんきょう)。愛する妻を腕に抱き、今すぐここから連れ去りたいと願う陳恭でしたが、翟悅(たくえつ)の覚悟は揺るぎませんでした。

彼女は、もし今二人で逃げれば、魏のスパイ「燭龍(しょくりゅう)」を捕らえる計画がすべて水の泡となり、陳恭と従兄の荀ク(じゅんく)は永遠に裏切り者の汚名を着せられ追われる身になると、冷静に夫を諭します。涙を抑えきれない陳恭に、翟悅(たくえつ)は「悲しい顔を見せれば黄預(こうよ)に怪しまれる」と気丈に振る舞うのです。もう、この時点で涙腺が…。

毒が全身に回り、死期を悟った翟悅は、最後の力を振り絞り、陳恭に重要な情報を託します。黄預と燭龍が交わす密書の解読法が、道教の経典『太平天書』にあること。そして、自らの正体が露見した密書の数字を暗唱し、夫の任務遂行を助けようとします。これが、彼女が愛する人のためにできる、最後の仕事でした。

そして、翟悅は荀ク(じゅんく)から陳恭に渡されていた毒の匕首を手に取ります。自らの舌をわずかに傷つければ、毒が回り切った状態で静かに息を引き取ることができ、誰にも怪しまれない…。そう言って微笑む彼女を、陳恭は力強く抱きしめることしかできませんでした。国を裏切らず、家族を思い、愛する人の腕の中で逝く。彼女は、スパイとして、妻として、その壮絶な生涯に満足して旅立っていったのです。このシーンは、本作屈指の悲劇であり、名場面と言えるでしょう。

策謀渦巻く司聞曹、それぞれの思惑

一方、蜀の司聞曹(しぶんそう)では、新たな権力闘争が始まっていました。

獄から解放された馮膺(ふうよう)のもとに、陰輯(いんしゅう)が高堂秉(どうへい)に連れられてやってきます。陰輯は、馮膺(ふうよう)を裏切り私腹を肥やしていた罪を涙ながらに告白し、命乞いをしました。

馮膺(ふうよう)は、すべてお見通しだったとばかりに彼を許し、引き続き任用することを決めます。側近の孫令(そん れい)は納得いきませんが、馮膺は「一度裏切った者は、恐怖心からかえって忠実に働く」と、その老獪さを見せつけます。そして、陰で糸を引いていた高堂秉には、「二度と小細工はするな」と静かに釘を刺すのでした。この腹の探り合い、たまりませんね!

そんな中、高堂秉は馮膺に、遊郭・紫煙閣の柳瑩(りゅうえい)を李厳(りげん)将軍に推薦してはどうかと進言します。その会話を偶然耳にしたのが、荀ク(じゅんく)でした。彼は馮膺が常に携帯している印章を見て、ある計画を思いつきます。

危険な賭けに出る荀ク(じゅんく)と、柳瑩(りゅうえい)の想い

荀ク(じゅんく)は、柳瑩(りゅうえい)の馬車を止め、「笛を返してほしい」と口実をつけ彼女に接触します。柳瑩は、荀ク(じゅんく)の真意を見抜きながらも、彼に協力することを快諾。彼女は荀ク(じゅんく)に好意を寄せており、「理由も聞かずにあなたのために何でもする」とまで言うのです。この二人の間にも、何か特別な絆が芽生え始めているようですね。

その夜、馮膺は柳瑩を食事に誘います。柳瑩は得意の色仕掛けで馮膺を後庭の温泉へと誘い、その隙に侍女の影児(えい)が馮膺の印章を盗み出します。

印章を手に入れた荀ク(じゅんく)は、通行証に素早く印を押すと、すぐに印章を返却させ、足早にその場を去っていくのでした。果たして、荀ク(じゅんく)はこの通行証で何をしようというのでしょうか。物語は新たな謎をはらんで、次なる局面へと進んでいきます。

『風起隴西(ふうきろうせい)-SPY of Three Kingdoms-』第13話の感想

今回のエピソードは、前半の陳恭と翟悅の悲劇的な別れと、後半の司聞曹内部で繰り広げられる静かな権力闘争の対比が見事でした。愛する人をその腕に抱きながら、救うこともできず、ただその死を見届けるしかない陳恭の慟哭は、観ているこちらの胸を深くえぐります。スパイという非情な任務が、いかに個人の幸福を犠牲にするかを痛感させられました。翟悅の、国と夫への忠誠を貫いた最期は、悲しくも美しいものでした。一方で、馮膺、高堂秉、そして荀ク(じゅんく)が水面下で繰り広げる策略の応酬は、物語に一層の厚みと緊張感を与えています。特に、荀ク(じゅんく)が柳瑩の協力を得て馮膺の印章を盗む場面は、彼の覚悟と、彼を想う柳瑩の健気さが交錯し、今後の二人の関係からも目が離せなくなりました。静かながらも、物語が大きく動いた重要な回だったと感じます。

つづく