あらすじ
魏の間諜「燭龍(しょくりゅう)」を巡る謎が新たな局面を迎え、ある中心人物の驚くべき過去と、彼が二重スパイとなった悲しい理由がついに明かされます。一方、蜀の朝廷内では、諸葛亮(しょかつりょう)が進める北伐を巡って権力闘争が激化。皇帝が密かに抱く猜疑心は、重臣・李厳(りげん)の野心に火をつけます。司聞曹では捕らえられたスパイの尋問が難航する中、主人公は父の仇を討つという秘めたる目的のため、次なる一手として驚きの行動に出るのでした。
ネタバレ
いやあ、今回の『風起隴西』は、これまで積み重ねてきた謎が一気に解き明かされる、まさに神回でしたね!物語の根幹を揺るがす、とんでもない事実が次々と明らかになり、ただただ圧倒されるばかりでした。
燭龍の正体と、陳恭の壮絶なる過去
まず度肝を抜かれたのが、魏の郭淮(かくわい)の口から語られた衝撃の事実。これまで蜀漢を脅かしてきた魏の間諜「燭龍(しょくりゅう)」、その新たな担い手は、なんと主人公の陳恭(ちんきょう)だったのです!
郭剛(かくごう)が「なぜ陳恭が魏に寝返るんだ?」と驚くのも無理はありません。しかし、郭淮が語り始めたのは、陳恭を裏切りと復讐の道へと突き動かした、あまりにも悲しい過去でした。
話は10年前に遡ります。当時、郭淮は蜀の司聞曹(しぶんそう)を率いる馮膺(ふうよう)と裏で情報取引をしていました。馮膺(ふうよう)は自らの出世のために、蜀の密偵の命を犠牲にしてまで魏に情報を売っていたのです。そして、その馮膺(ふうよう)の裏切りによって、李厳(りげん)将軍の身代わりとなり戦死したのが、陳恭の義父・陳黼(ちんほ)でした。
つまり、陳恭にとって馮膺は、尊敬する上司であると同時に、父の仇だったわけです。この事実を知った陳恭の絶望と怒りは、想像に難くありません。「この賊を討たねば、人にあらず」と誓った彼は、郭淮の誘いに乗り、馮膺への復讐を果たすため、蜀と魏の二重スパイになることを決意したのでした。街亭の件で必死に蜀へ戻ろうとしたのも、すべては馮膺を打倒し、司聞曹を内部から掌握せよという郭淮の指令だったのです。
それぞれの思惑が渦巻く蜀漢
一方、蜀漢の内部もきな臭い動きが加速しています。李厳(りげん)は、諸葛亮(しょかつりょう)の北伐を快く思わない皇帝・劉禅(りゅうぜん)から密書を受け取ります。皇帝の猜疑心という後ろ盾を得た李厳(りげん)は、自らの行動が国への忠義だと確信を深めます。
彼はひとまず、楊儀(ようぎ)の復職を条件に馮膺を助命しますが、それはあくまで権力闘争の駒として生かしておくだけ。馮膺もそれを承知の上で、李厳に豪華な別荘と、今や彼の寵姫となった柳瑩(りゅうえい)をあてがい、歓心を買います。
その柳瑩(りゅうえい)と密会した陳恭は、「青萍(せいへい)計画」の真の目的、すなわち馮膺の暗殺を成功させるため、柳瑩(りゅうえい)に協力を求めます。妻・翟悅(たくえつ)を失った悲しみを胸に秘め、陳恭は復讐の駒を静かに進めていくのです。
そして物語のラスト、陳恭は傷の癒えた荀ク(じゅんく)のもとを訪れ、捕らえられている高堂秉(どうへい)の尋問を自らが行いたいと申し出ます。父の仇とも知らず、自分を信頼する親友・荀ク(じゅんく)を前に、陳恭は何を思うのか。彼の真の目的とは一体何なのでしょうか。
『風起隴西(ふうきろうせい)-SPY of Three Kingdoms-』第17話の感想
今回のエピソードは、陳恭という人物の輪郭を根底から描き直す、非常に重厚な回でした。彼がなぜ魏に与するのか、その動機が「父の仇討ち」という極めて個人的な復讐心にあったことが明かされ、物語に一層の深みと悲壮感が加わりました。単なる正義や大義だけでは割り切れない、人間の複雑な感情こそが、彼を突き動かす原動力だったのです。敵であるはずの郭淮が、陳恭の心の弱さにつけ込みながらも、彼の才覚を認め、壮大な計画の駒として組み込んでいく様は、敵味方を超えた策士たちの暗闘の恐ろしさを感じさせます。誰が本当の敵で、誰が味方なのか。その境界線が溶け合っていくような脚本の見事さに、ただただ引き込まれました。
つづく