あらすじ

魏の五仙道に潜入した陳恭(ちんきょう)は、その正体を疑われ、絶体絶命の危機に陥る。機転を利かせ、この窮地を乗り切ろうと試みるが、そこにはさらなる心理戦が待ち受けていた。一方、蜀の都・南鄭では、親友を救おうとする荀ク(じゅんく)の行動が、思わぬ波紋を広げる。司聞曹の内部では、高官・李厳(りげん)の意を受けた李バク(りばく)が暗躍し、ある重要人物を陥れるための巧妙な罠を仕掛けていた。二つの場所で同時に進む陰謀が、緊迫の物語を織りなす。

ネタバレ

『風起隴西』第8話、まさに息もつけない心理戦の連続でした。魏の五仙道に潜入した陳恭(ちんきょう)と、蜀の都・南鄭で奔走する荀ク(じゅんく)、二人の義兄弟がそれぞれの場所で絶体絶命の窮地に立たされます。

黄預の罠!陳恭、絶体絶命の危機

五仙道に潜入中の陳恭は、大祭酒・黄預(こうよ)から「白帝(はくてい)の正体は、お前と一緒に来た陳主簿(実は陳恭本人)だった」と告げられます。さらに「今夜、郭剛(かくごう)様の使者が来る」と聞かされ、歓迎の宴が設けられることに。これは明らかに陳恭(が成りすましている糜冲(びちゅう)の正体を探るための罠です。

案の定、宴の席に現れた偽の使者は、陳恭を指さし「こいつは蜀のスパイだ!」と断言。決定的な証拠として、陳氏一族の者しか持たないという「忍冬草の刺青」の存在を突きつけます。万事休すかと思われたその時、同席していた妻であり、五仙道の聖女でもある翟悅(たくえつ)が、機転を利かせた合図を送ります。

そのヒントを元に、陳恭は大胆な行動に出ました。おもむろに服を脱ぎ、刺青などどこにもない、無数の傷跡に覆われた背中を皆に晒して見せたのです。そして、郭剛(かくごう)と自分たちだけの暗号だと偽って「月黒く星稀にして、烏鵲南に飛ぶ」という詩を口ずさみ、偽の使者たちを動揺させます。この一瞬の隙を突き、陳恭は「こいつらこそ蜀のスパイだ!」と叫び、見事に斬り捨てました。まさかの大逆転劇に、黄預も自らの部下を斬って口封じをするしかありません。

かつて、友である荀ク(じゅんく)が火で焼いて消してくれた刺青のおかげで、陳恭は命拾いしたのでした。この一件で黄預の信頼を勝ち取った陳恭は、彼と義兄弟の契りを結び、魏を欺くための壮大な計画「青萍計画」の存在を明かすのです。

仕組まれた陰謀、馮膺(ふうよう)の失脚

一方、蜀の都・南鄭では、もう一つの陰謀が静かに進行していました。

荀ク(じゅんく)は、殺された魏のスパイの検視のため陽平関へ向かいます。その際、上司の李バク(りばく)から、解読用の木版を預かりました。荀ク(じゅんく)は死体が本物の糜冲(びちゅう)であることを確認して安堵し、陳恭を庇うために「死体には忍冬草の刺青があった」と偽の報告をします。これで公式には「白帝(はくてい)は死んだ」ことになりました。

しかし、荀ク(じゅんく)が豪雨で都に戻れない間に、事件は起きます。荀ク(じゅんく)が靖安司に厳重に保管させたはずの木版が盗まれ、見張りをしていた部下の廖会(りょうかい)が無残な姿で発見されたのです。荀ク(じゅんく)は現場の状況から、廖会が抵抗する間もなく一撃で殺されたことを見抜きます。

この事件の裏で糸を引いていたのは、諸葛亮(しょかつりょう)を失脚させたい李厳(りげん)の腹心、李バク(りばく)でした。李バク(りばく)は、事前に司聞曹の長である馮膺(ふうよう)を罠にはめていました。大雨の夜、偽の急用で馮膺(ふうよう)を職場におびき出し、彼が事件のあった靖安司を訪れたという事実を作り出したのです。

そして、狐忠(こちゅう)が李厳(りげん)の命令だとして馮膺を逮捕。荀ク(じゅんく)は、馮膺が犯人だという状況証拠が固められていくことに疑念を抱きながらも、李バク(りばく)に迫られ、馮膺が犯人であるかのような調書に署名せざるを得なくなってしまうのでした。友を救うためについた嘘が、敬愛する上司を窮地に追い込むとは…なんという皮肉な巡り合わせでしょうか。

『風起隴西(ふうきろうせい)-SPY of Three Kingdoms-』第8話の感想

今回は、まさに「信じる者は誰か、裏切る者は誰か」というスパイものの真骨頂が凝縮された回でした。陳恭が絶体絶命のピンチを知略と度胸で切り抜ける様は圧巻の一言。一方で、親友を思う荀ク(じゅんく)の行動が、結果的に上司である馮膺を追い詰めてしまうという構図は、非常に皮肉で胸が痛みました。個人の情や忠誠心が、大きな権力闘争の渦の中でいかに無力で、そして時に危険なものになりうるかを見せつけられた気がします。敵と味方、忠義と裏切りが複雑に絡み合い、単純な善悪では割り切れない人間ドラマの深みが、この物語の大きな魅力だと改めて感じました。登場人物それぞれの正義と苦悩が交錯し、物語に一層の厚みを与えています。

つづく