蘭陵王(らんりょうおう)が雪舞(せつぶ)と穏やかな隠居生活を送る一方、都では皇太子・高緯(こうい)の悪政が発覚し、皇帝は激怒する。我が子に失望した皇帝は、蘭陵王を急遽呼び戻し、彼に皇位を譲ることを検討し始める。父からの信頼を完全に失い、常に比較される蘭陵王への嫉妬に心を蝕まれた高緯は、鄭児(ていじ)らの甘言もあり、次第に追い詰められていく。皇宮に渦巻く権力への欲望と、父子の間に生まれた深い亀裂が、やがて誰も予期しなかった悲劇へと発展していく、緊迫感に満ちた物語。

「蘭陵王」あらすじネタバレ30話

今回は第30話、穏やかな日々から一転、血塗られた悲劇へと突き進む、まさに息をのむ展開でした。さっそく、この衝撃の回を振り返っていきましょう。

田舎で薬草を育て、穏やかな隠居生活を送る蘭陵王(らんりょうおう)と雪舞(せつぶ)。蘭陵王(らんりょうおう)は、自分が身を引いたのは、太子である高緯(こうい)に国政を担う経験を積ませるためだと雪舞(せつぶ)に打ち明けます。愛する妻との平和な暮らしを守りたい、そして、弟でもある太子に独り立ちしてほしい。そんな兄としての深い思いがあったんですね。

しかしその頃、都ではとんでもない事態が進行していました。お忍びで民の暮らしを見て回っていた皇帝・高湛(こうたん)は、太子・高緯(こうい)が金儲けのために官職を売りさばいていたという悪行を知ります。しかも、朝廷では側近の祖テイ(そてい)が「太子の政治は素晴らしい!」なんて大嘘をついて褒め称えている始末。

すべてを知った皇帝の怒りは頂点に達します。朝議の場で「その行いは国を滅ぼす気か!」と高緯を激しく叱責。しかし、高緯はまったく反省の色を見せません。父に失望しきった皇帝は、ついに「こんな者に世継ぎは務まらぬ!」と、蘭陵王を都に呼び戻し、皇位を譲ることを決意するのです。

この一報は、高緯の心を嫉妬の炎で焼き尽くしました。父はいつも蘭陵王ばかりを評価する。そして今度は、自分から皇位まで奪おうとしている。追い詰められた高緯に、寵愛する鄭児(ていじ)と祖テイ(そてい)が「ためらっていては、逆にやられます」と悪魔のささやきを吹き込みます。その言葉に、高緯の瞳は血の色に染まっていくのでした。

そして運命の日、祭典の儀式で悲劇は起こります。高緯の息がかかった者が、皇帝の食事に麻薬を仕込み、皇帝は意識を失い昏倒。高緯は自ら父を内室へと運び込みます。

父が眠る寝台の前で、高緯は毒薬を手に震えていました。父を殺すことへのためらいが、彼を押しとどめていたのかもしれません。しかしその時、意識を取り戻した皇帝が目を開き、息子が毒を持っていることに気づきます。悲しみと怒りに震えた皇帝が叫んだ一言、それがすべての引き金でした。

「朕は、蘭陵王に位を譲る!」

この言葉が、高緯のかろうじて保っていた理性の糸を断ち切りました。彼は逆上し、そばにあった香炉を手に取ると、父の頭めがけて力いっぱい振り下ろしたのです。

そこへ、祖テイが詔(みことのり)を手に駆け込んできます。「陛下より詔!皇位を太子に…」しかし、その言葉は途中で途切れます。目の前には、血の海に倒れる皇帝と、呆然と立ち尽くす高緯の姿が。床に落ちた詔書を、高緯は血に染まった手で拾い上げます。そこには、まぎれもなく「太子・高緯に譲位する」と記され、玉璽が押されていました。

父は、自分を試していただけだった。本当は、自分に国を託すつもりだった。その真実を知った時、高緯の手から香炉が滑り落ち、彼は父の亡骸のそばで、獣のような悲痛な叫び声を上げるのでした。

『蘭陵王』第30話の感想

今回のエピソードは、登場人物たちの心の脆さが引き起こした、あまりにも痛ましい悲劇でした。特に、父殺しという大罪を犯してしまった高緯の姿は、単なる悪役として片付けられない複雑な感情を抱かせます。彼はもともと、父に認められたい、愛されたいと願う一人の弱い人間だったのではないでしょうか。しかし、その願いは英雄的な兄・蘭陵王の存在によって常に打ち砕かれ、彼の心は劣等感と嫉妬で歪んでいきました。

皇帝・高湛(こうたん)もまた、息子を正しい道へ導こうとしながら、その方法を誤ってしまいました。高緯を奮起させるための「蘭陵王に譲位する」という最後の一言が、最悪の結果を招いてしまった皮肉。父と子の心のすれ違いが、これほど取り返しのつかない結末を生むとは、あまりに悲痛です。そして、その心の隙間に巧みに入り込み、破滅へとそそのかした鄭児(ていじ)や祖テイの存在が、物語に一層の深みと恐ろしさを与えています。誰もが、自らの選択によって破滅へと突き進んでいく。その重厚な人間ドラマに、ただただ心を揺さぶられました。

つづく