今回は『蘭陵王』第37話、あまりにも過酷で、そしてあまりにも切ない希望が描かれた回でした。涙なしでは見られない展開に、心を鷲掴みにされた方も多いのではないでしょうか。早速、あらすじとネタバレを見ていきましょう。
祖珽(祖テイ(そてい))に追われ、崖から身を投げた雪舞(せつぶ)。誰もが絶望したその時、彼女は瀕死の状態で川辺に流れ着き、心優しい阿文(あぶん)親子に助けられます。しかし、意識を取り戻した雪舞の耳に飛び込んできたのは、愛する蘭陵王(らんりょうおう)が毒酒をあおり、自害したという信じがたい知らせでした。
「四爺(しいえ)のもとへ…」
生きる意味を失った雪舞は、悲しみのあまり後を追おうと、震える手で鋏を握りしめます。しかし、その瞬間、ふと自身のお腹に手を当てて動きを止めました。なんと、診察した医師から、彼女が蘭陵王の子供を身ごもっていることが告げられたのです。それは、蘭陵王がこの世に残した、たったひとつの血脈。死を選ぶことも、生き続けることも、どちらも地獄のような苦しみの中で、雪舞はただただ涙を流すしかありませんでした。
その頃、雪舞とはぐれた暁冬(きょうとう)は、満身創痍の体を引きずりながら、命がけで周の国境を越えていました。彼が握りしめていたのは、蘭陵王から託された最後の手紙。敬愛する主君からの「雪舞を頼む」という悲痛な願いを受け取った周の皇帝・宇文邕(うぶんよう)は、怒りと悲しみで茶碗を叩きつけます。そして、家臣の制止を振り切り、自ら危険な斉の国へ潜入し、雪舞を探し出すことを決意するのでした。
一方、兄を死に追いやり、父王までも手にかけて即位した斉の新皇帝・高緯(こうい)は、罪の意識に苛まれ、精神は崩壊寸前。夜な夜な悪夢にうなされ、彼を慰められるのは妖しく美しい鄭児(ていじ)ただ一人でした。高緯(こうい)が自分に依存するのを良いことに、鄭児(ていじ)は彼を巧みに操り、雪舞を抹殺するための捜索隊を増員させます。その瞳の奥には、嫉妬と野望の炎が静かに燃え盛っていました。
数日間、食事も喉を通らず涙に暮れていた雪舞。しかし、阿文の母から「あなたが倒れたら、お腹の子はどうするんだい?」と諭され、ハッと我に返ります。愛する人の忘れ形見を守るため、彼女は生きることを決意。差し出された粥を静かに口へと運び始めました。
そして、蘭陵王が眠る場所を聞き出した雪舞は、夜明け前、一人で旅立ちます。「四爺、待っていて…。あなたの子を連れて、会いに行くわ」。その小さな背中には、母となる女性の強い決意が満ちていました。
『蘭陵王』第37話の感想
これ以上ないほどの絶望から、一条の光が差し込んだ回でした。蘭陵王の死という最大の悲劇は、視聴者の心を深くえぐりましたが、その直後に明かされる雪舞の妊娠は、物語に「命の継承」という新たなテーマを与えました。ただ悲しみに暮れるのではなく、愛する人の血脈を守るために生きることを選ぶ雪舞の姿は、か弱さの中から生まれる母性の強さを見事に描き出しています。また、蘭陵王との約束を果たすため、皇帝という立場を捨ててでも危険な敵国へ向かう宇文邕の行動には、彼の義理堅さと人間的な深みが表れており、胸が熱くなりました。一方で、罪悪感に溺れる高緯と、彼を利用して権力を握ろうとする鄭児の歪んだ関係は、斉国の行く末に不吉な影を落としており、物語の対比構造をより鮮明にしています。
つづく