死体の山の中から、かろうじて息のあるジャンヒョン(ナムグン・ミン)を見つけ出したギルチェ(アン・ウンジン)。 まるで奇跡のような再会でしたが、彼の命は風前の灯火でした。ギルチェは通りかかった内官の助けを借り、なんとかジャンヒョンを自宅へと運び込みます。 医者からは望みはないと突き放されてしまいますが、ギルチェは諦めません。
その頃、宮殿ではジャンヒョン(役人たちはク・ヤンチョンだと思い込んでいる)の遺体が消えたと大騒ぎになっていました。 ギルチェの家に追手が迫る中、危機を察知したリャンウム(キム・ユヌ)が間一髪で現れ、ジャンヒョンを連れて安全な場所へと避難させます。 追手の役人の一人は寝具の血痕に気づきますが、なぜかそれを見逃してくれました。 リャンウムは、これまで自分を気にかけてくれていたジャンヒョンの深い情を思い出し、罪悪感に苛まれながらも、ギルチェをジャンヒョンの隠れ家へと案内します。
意識のないジャンヒョンは、かつて召使いと恋に落ち、父にその相手を殺された姉の夢を見ていました。 そして、ついに目を覚ますのですが…彼の瞳にギルチェやリャンウムの姿は映っていませんでした。そう、過酷な拷問の末、ジャンヒョンは記憶をすべて失ってしまっていたのです。 ギルチェのことは覚えていないものの、彼女を見ていると不思議と楽しい気持ちになるジャンヒョン。
一方で、宮廷では昭顕世子(ソヒョンセジャ)が病状の悪化の末、息を引き取ります。 亡くなる直前、彼はジャンヒョン宛ての書信を枕に隠していました。 世子の死後、仁祖(インジョ)王の猜疑心は狂気へと変わり、呪いの品を埋めたという濡れ衣を着せて世子嬪(セジャビン)を追い詰めていきます。 ナム・ヨンジュン(イ・ハクジュ)が証拠なき噂だと弁護しますが、王の耳には届きません。 仁祖(インジョ)王は、世子が解放した捕虜たちが世子嬪と組んで自分を殺そうとしているという妄想に取り憑かれ、ジャンヒョンの人相書きを全国に配り、見つけ次第殺害するよう命じます。
そんな過酷な現実とは裏腹に、ギルチェと記憶を失ったジャンヒョンの間には、穏やかで幸せな時間が流れていました。 ギルチェは、これまでの関係性を逆転させるかのように、積極的にジャンヒョンに近づきます。 手を繋ぎ、他愛ない遊びに興じ、一緒に洗濯をし、食事を食べさせ、日なたで口づけを交わす…。 たとえジャンヒョンが自分を思い出せなくても、彼を絶対に見捨てないと誓うギルチェにとって、この数日間は人生で最も幸せな日々でした。
しかし、その幸せは長くは続きません。ジャンヒョンを連れ戻すため、清からガクファ(イ・チョンア)が朝鮮に到着。 そして、仁祖(インジョ)王はついに世子嬪に自害を命じ、彼女の支持者たちの粛清を始めます。 悲劇は連鎖し、王の疑いは昭顕世子(ソヒョンセジャ)に近かった通訳官たち、そして忠臣チェ・ミョンギルにまで及び、彼は王の言葉に衝撃を受けて亡くなってしまいます。
ある日、ギルチェのスキンシップに戸惑い、思わず彼女を突き放してしまうジャンヒョン。 ギルチェがその場を去った後、彼女が残した指輪を手に取ります。 指にはめようとした瞬間、指輪が手から滑り落ち、地面に当たってカランと音を立てました。 その音は、かつて牢獄で指輪を落とし、必死に手を伸ばしたあの日の記憶の引き金となります。 激しい頭痛と共に、失われたすべての記憶が濁流のように蘇るのでした。
戻ってきたギルチェに、ジャンヒョンはまた何か、後悔するようなことをしたか?と尋ねます。 その言葉で彼の記憶が戻ったことを悟ったギルチェ。 ジャンヒョンは心から謝罪し、二人は涙ながらに固く抱きしめ合うのでした。
『恋人~あの日聞いた花の咲く音~』第19話の感想
記憶を失ったジャンヒョンとギルチェが過ごした、束の間の穏やかな日々が、あまりにも美しく、そして切なく胸に迫る回でした。これまでジャンヒョンからの愛を一身に受けながらも、素直になれなかったギルチェ。その彼女が、今度は立場を逆転させ、無邪気な子供のようになったジャンヒョンに惜しみない愛を注ぐ姿は、二人の愛の形の変化と深化を感じさせました。洗濯をしながら水をかけ合ったり、日なたで交わす口づけだったり、一つ一つのシーンが絵画のように美しく、同時にこの幸せが長くは続かないであろうことを予感させ、胸が締め付けられました。
一方で、仁祖(インジョ)王の狂気によって次々と引き起こされる宮廷の悲劇は、二人のささやかな幸せとあまりにも対照的でした。特に、最後まで民と家族を案じながらも非業の死を遂げた世子嬪の運命には、言葉を失います。愛と狂気が交錯し、物語が最終回に向けて大きく動いた、非常に重厚なエピソードだったと感じます。
つづく