草原での切ない口づけから始まった第8話。イ・ジャンヒョンは、たとえ自分のことを愛していなくても、共に過ごしたこの瞬間だけは忘れないでほしいとユ・ギルチェに告げ、皇太子を護衛して瀋陽(シミャン)へと旅立ちます。ギルチェはまだ、夢に出てくる男性はナム・ヨンジュンだと信じ込んでいました。

家に戻ったギルチェは、ヨンジュンと親友のキョン・ウネの姿を遠くから見つめます。しかし、心の中では夢の男性への疑念が膨らみ、出発前のジャンヒョンに一目会いたいという思いが募ります。そんな彼女の前に、武官のク・ウォンムが現れ、ジャンヒョンに会う手助けを申し出るのでした。

その頃、ジャンヒョンと皇太子一行は王に見送られ、瀋陽へと向かいます。道中、民衆は皇太子にひれ伏し、行かないでほしいと涙ながらに訴えます。その中にギルチェの姿もありました。清の兵士が彼女に目をつけ捕らえようとしますが、間一髪でジャンヒョンが助けに入ります。清の皇帝が私的な奴隷化を禁じたことを利用し、兵士たちを退かせたのです。

二人きりで話す機会を得たものの、お互いに本当に伝えたい言葉は口にできません。ジャンヒョンはギルチェの無鉄砲さを責め、ギルチェは素直になれず、花柄の靴が欲しいとねだるのが精一杯でした。ジャンヒョンは心をくれるなら、最も美しい靴を贈ろうと約束します。そして、もしヨンジュンを忘れると、たとえ嘘でも言ってくれたら、私は瀋陽へは行かないとまで伝えるのですが、ギルチェは簡単に忘れられる人ではないと答えることしかできません。ジャンヒョンは彼女の残酷さに傷つきながらも、必ず美しい靴を持って帰ると誓い、去っていくのでした。

瀋陽へ向かう道中、ジャンヒョンはリャンウムに決して忘れられない人はいるだろうかと問いかけます。リャンウムは、幼なじみで結婚を誓い合ったカプドルとカプスンという男女の物語を語ります。カプスンは裕福な家に嫁ぎ7人の子をもうけましたが、死の床で夫の手を握りながらカプドルと呼び、来世で会いたいと願ったというのです。決して忘れられない想いは、死んでも変えられないのだと。

一方、漢陽(ハニャン)に残ったギルチェは、ヨンジュンとウネが結婚するのを見届けます。ヨンジュンがウネに向ける愛情深い眼差しを見ても、もう悲しいとは感じない自分に気づくギルチェ。優しいヨンジュン様だから、夢の殿方もきっと彼だと思い込んでいただけなのかもしれない。この気持ちは消えたのか、それとも新しい気持ちが芽生えたのか…彼女は、夢に出てくる男性の顔を確かめたいと強く願うようになります。

瀋陽に到着したジャンヒョンは、持ち前の商才を発揮して瞬く間に成功を収めます。通訳官という立場を活かし、清と朝鮮の商人、そして権力者たちに取り入って富を築いていきました。しかし、彼の活躍を快く思わない者もいました。かつて敵対したヨン・ゴルテは、ジャンヒョンが間者ではないかと疑いの目を向けます。

そんな中、ジャンヒョンは役人のチョン・ミョンスが王への献上品を横領している事実を掴みますが、下手に動けば危険だと察知します。しかし、時すでに遅く、皇太子の側近がミョンスを告発。これは罠であり、告発した側近が逆に罪に問われ、関わったとされる者たちが次々と捕らえられてしまいます。その中には、ジャンヒョンの姿もありました。

漢陽では、ヨンジュンが王に清へ立ち向かうべきだと勇敢に進言したことで逮捕され、ギルチェの一家も王から与えられた家を追われることに。

やがて、瀋陽から人々が帰還し始めます。ギルチェはジャンヒョンの帰りを心待ちにしますが、彼は戻りません。リャンウムとクジャムはジャンヒョンの解放を懇願しますが、もはや手遅れでした。処刑される者の遺品が漢陽に送られ、その中にはジャンヒョンの扇子や、ギルチェが頼んだ靴、そして彼女が渡した赤いリボンがあったのです。

帰還した役人からジャンヒョンが処刑されたと聞かされたギルチェは、役所で彼の遺品を確認し、その事実を突きつけられます。

その夜、ギルチェはついに夢を見ます。夢の中の男性が、ゆっくりとこちらを振り向く。その顔は、紛れもなくジャンヒョンでした。泣きながら眠りから覚めたギルチェは、翌朝、ジャンヒョンから貰った上着を手に崖の上へ向かいます。夫の上着を持って名を三度呼べば、死んだ魂も戻ってくるという言い伝えを信じて。

イ・ジャンヒョン様…イ・ジャンヒョン様…!

まだ、伝えられていない言葉があったのに。ギルチェの慟哭が響き渡ります。その声は、遠く離れた瀋陽で、清の皇帝の前にひざまずくジャンヒョンに届いているかのようでした。

『恋人~あの日聞いた花の咲く音~』第8話の感想

今回のエピソードは、登場人物たちの心が大きく揺れ動き、運命が非情に交錯する、非常に密度の濃い回でした。特に印象的だったのは、ギルチェが自身の本当の気持ちに気づくまでの過程です。長い間ヨンジュンへの憧れを恋だと信じてきた彼女が、ジャンヒョンを失った(と思った)瞬間に、夢の中の男性の正体と、心の奥底にあった本当の想いを自覚するシーンは、あまりにも切なく胸が締め付けられました。すれ違い続けた二人の想いが、最も過酷な形で通じ合ってしまう展開には、ただただ言葉を失います。一方で、瀋陽で商才を発揮するジャンヒョンの有能さと、ギルチェへの一途な愛の深さも際立っていました。彼がどんな状況でもギルチェを想い、彼女のために美しい靴を探す姿は、後の悲劇を知っているからこそ、より一層切なさを増幅させます。物語が大きく動き出し、登場人物たちがそれぞれの試練に直面する中で、彼らがこの先どのような道を歩むのか、固唾をのんで見守りたいと思います。

つづく