ストーリー
「もう、お酒なしでは生きられないの?」 アルコール依存症を宣告されたヒロインと、彼女を冷たく突き放すかつての親友。二人が織りなす、禁酒を巡る葛藤と再生のラブストーリー。
◆作品概要
tvNにて2025年5月12日より放送開始された全12話の新作ドラマ『禁酒をお願い』。映画『正直な候補』のチャン・ユジョン監督と、ドラマ『月刊家』のミョン・スヒョン脚本家がタッグを組み、アルコール依存症という社会的なテーマに正面から向き合いつつも、ロマンス要素を織り交ぜた意欲作。主演はチェ・スヨンとコンミョン。
◆物語
自動車整備士として働くハン・グムジュ(チェ・スヨン)は、自分を「理知的な酒飲み」だと信じて疑わなかった。しかし、医師から下された診断は「アルコール依存症」。酒浸りの家庭環境で育った彼女にとって、それは受け入れがたい現実だったが、ついに禁酒を決意する。
そんな彼女の前に現れたのは、高校時代の親友ソ・ウィジュン(コンミョン)。保健医として働く彼は、かつての面影もなく、グムジュのアルコール問題に対して冷酷なまでに無関心な態度を見せる。「酒は人生を破滅させるだけだ」と断言するウィジュンに、グムジュは戸惑いながらも、彼がそこまでアルコールを憎む理由を探り始める。
グムジュの禁酒生活は、想像を絶する苦難の連続だ。元カレの写真を酒瓶に貼り付けて飲酒欲求を抑えようとしたり、焼酎の代わりにアイスコーヒーをがぶ飲みしたり、ついにはお寺に駆け込むも、こっそりマッコリを買いに山を降りてしまう始末。鏡に口紅で「今日は絶対に飲まない」と誓いを立てても、翌日には「ほんの少しだけなら…」と書き換えてしまう「自傷的チェックイン」を繰り返す日々。ドラマは、アルコール依存症患者が抱える生理的・心理的な葛藤をリアルに描き出す。
一方、グムジュの禁酒を厳しく監視するウィジュンもまた、人知れず抗不安薬を手放せない日々を送っていた。ある雨の日、二人の感情は激しく衝突する。「あなた、自分が私を救うために神様から遣わされたとでも思ってるの?」グムジュの叫びは、救う者と救われる者が、実は同じように溺れているという皮肉な現実を突きつける。
衝突を繰り返しながらも、互いを理解しようとする中で、グムジュはウィジュンが頑なにアルコールを拒絶する背景にある、深い心の傷に触れていく。二人の間には、対立と共感が入り混じった複雑な感情が芽生え始めるのだった。
◆みどころ
本作は、韓国社会における職場の飲酒強要文化を痛烈に批判。「飲まないのは俺を馬鹿にしているのか」と怒鳴る上司の姿は、酒の席でのパワーハラスメントの現実を映し出す。また、グムジュの父親が酔うたびに「あの時、会社が俺をクビにしなかったら…」と繰り返す言葉は、アルコール依存の根底に癒えないトラウマが存在することを示唆する。
チャン・ユジョン監督は、映像表現にも工夫を凝らす。グムジュが禁酒に失敗するたびに画面はバターを塗ったような黄色いフィルターで覆われ、逆にシラフの時には高彩度の明るい映像を用いることで、「泥沼から這い上がり、綿畑にたどり着く」ような視覚的コントラストを生み出している。
制作にあたり、137人の実際の禁酒経験者へのインタビューが行われ、彼らの体験がストーリーに生かされている。「あんたたちが売ってるのは酒じゃない、ガラス瓶に詰められた絶望だ!」とグムジュが酒造会社の社長に怒りをぶつけるシーンのセリフは、アルコール産業が社会に与える害悪に鋭く切り込む。
主演のチェ・スヨンは、役作りのために7日間毎日3時間睡眠で撮影に臨み、禁断症状のシーンでは爪の間から木のささくれが見えるほどの熱演を見せる。コンミョンもまた、薬をこっそり飲む際の焦りや、グムジュに核心を突かれた時の崩れ落ちるような表情など、キャラクターの複雑な内面を繊細に表現している。
深刻なテーマを扱いながらも、韓国ドラマ特有のロマンティックで軽快なタッチも失われていない本作。現在、tvNおよびTVINGにて第2話まで配信中。二人の禁酒の行方と、心の再生から目が離せない。