あらすじ

仲間たちの計らいで、李嶷(りぎょく)と崔琳(さいりん)は二人きりの晩餐の席につく。そこで崔琳は、誤解から渡せずにいた贈り物を李嶷に手渡し、二人の距離は縮まったかに見えた。しかし、崔琳は李嶷を眠らせてその場を去る。船で逃亡する崔琳だったが、それすらも李嶷の仕組んだ策略の一部だったと知る。李嶷は崔琳の本当の正体を知っており、彼女を人質に父親を動かそうとしていたのだ。別れが迫る中、二人は楽游原で最後の時間を過ごし、互いの想いと過去を打ち明ける。

ネタバレ

すれ違う二人の夜

桃子(ももこ)と謝長耳が、気を利かせてくれたみたいだ。俺、李嶷(りぎょく)と崔琳(さいりん)のためだけに、晩餐を用意してくれた。これで仲直りしろってことなんだろう。

夜風が少し肌寒かった。崔琳(さいりん)が思わず自分の腕をさする。その仕草を見て、俺は彼女のそばへ行こうとした。でも、彼女はそれを拒んだんだ。暗器まで向けられて、気まずい空気が流れた。謝長耳が心配して来たけど、桃子(ももこ)が止めてくれた。二人は気を遣って、その場からいなくなった。ここには俺と崔琳だけが残された。

誤解と、束の間の和解

俺の心の中は、ぐちゃぐちゃだった。崔琳は昔、崔公子のために将棋の駒を作っていた。自分の手が傷だらけになるのも構わずに。俺には、そんなことしてくれたことないよな。そんなことを考えて、一人で落ち込んでいた。

その時だ。崔琳が袖から何かを取り出した。それは丁寧に作られた皮の腕当てだった。峝関にいた頃から準備していたと彼女は言った。渡すつもりだったけど、誤解があって今まで渡せなかったらしい。

その言葉を聞いて、俺の心は温かくなった。彼女が冷たい言葉を投げかけても、むしろ嬉しかった。もっと話してほしくて、わざと甘えてみた。腕当てをうまく着けられないから、手伝ってくれって。

崔琳は呆れた顔をしながらも、優しく腕当てを着けてくれた。俺はその瞬間を、目に焼き付けようと必死だった。彼女の顔をじっと見つめた。でも、その温かい時間も長くは続かない。崔琳はまた暗器を使った。俺は意識を失って、深い眠りに落ちてしまった。遠のく意識の中、彼女が俺の唇にキスをした気がする。そして、彼女は静かに去っていった。

暴かれた正体と、父の登場

夜が明けて、崔琳は船の上にいた。桃子と一緒に、夜の間に逃げ出したんだ。ふと船頭の手首を見ると、見覚えのある腕当てが着けられている。俺が彼女からもらった、あの腕当てだ。崔琳は、自分がまた俺の策略にはまったことに気づいた。怒りで顔がこわばっていた。

さらに衝撃の事実が明らかになる。俺は、彼女の本当の正体を知っていた。彼女が崔倚の一人娘であることも。俺が彼女を捕らえていたのは、ただの監禁じゃない。彼女の父親である崔倚に、兵を出させるための脅迫だった。崔琳は俺に警告した。父親と正面からぶつかれば、ただでは済まないと。

その頃、崔琳の父、崔倚は娘が捕らえられたと知って、すぐに泺陽へ駆けつけた。李氏の父子を人質に取り、俺に娘を解放するよう要求してきた。初めて会った崔倚は、崔琳とそっくりな性格をしていた。豪快で、まっすぐな人だ。

俺は崔琳に、父親と母親のどっちに似ているのか尋ねた。彼女は冷たく言い放った。甘い言葉には乗らない。捕らえられていた恨みは絶対に忘れない、と。その言葉を聞いて、俺は胸が痛んだ。もうすぐ、彼女と別れる時が来るんだと悟った。

楽游原での最後の時間

別れる前の、最後の時間。俺たちは、どっちが相手に気づかれずに去れるか、ゲームをすることにした。最初の勝負は、俺の負けだった。

二人で馬を走らせて、楽游原に着いた。そこでは、少しだけ穏やかな時間が流れた。崔琳が俺に、理想の君主について尋ねた。俺は正直に答えた。世の中が平和になったら、皇孫を探し出して、父上には退位してもらう。その後は、君と一緒にどこか遠くへ行きたい、と。崔琳は、そんな願いは叶わないと知っているようだった。それでも、俺の未来に自分が入っていることが嬉しそうだった。俺たちは楽游原で、強く抱きしめ合った。

崔琳は、自分の過去を話してくれた。柳承鋒に助けられたこと。両親が早くに亡くなったこと。父親が、彼女が女であることを隠し続けてきたこと。彼女の過去を知って、俺はもっと彼女を大切にしたいと思った。

夜が更けても、俺たちの話は尽きなかった。やがて崔琳は、俺のそばで眠りに落ちた。その穏やかな寝顔を見ていると、言葉にならない感情がこみ上げてくる。俺は彼女の額に、そっとキスをした。

次の日の朝、俺たちは目が覚めた。お互いの装飾品が、いつの間にか入れ替わっていることに気づいた。それはまるで、俺たちの心が離れられないと示しているようだった。

感想

いやあ、今回は甘い時間と切ない展開が目まぐるしかったね。李嶷(りぎょく)の策略家としての一面と、崔琳にだけ見せる一途な想いのギャップがたまらない。彼はただの武人じゃない。目的のためなら、愛する人さえ利用する冷徹さを持っている。でも、その根底には彼女への深い愛情があるから、見ていて憎めないんだよな。崔琳もすごい。李嶷を眠らせて逃げるけど、最後にキスはしていく。この複雑な気持ちが、彼女のキャラクターを深くしている。楽游原での二人の時間は、本当に美しかった。お互いの過去を打ち明けて、未来を語り合う。この束の間の安らぎが、これから来るであろう過酷な運命を予感させて、余計に胸が締め付けられたよ。

つづく