民国政府からの退去勧告により、紫禁城は未曾有の危機に瀕していた。皇帝・溥儀(ふぎ)は、臣下や太妃たちの抵抗に遭いながらも、時代の大きなうねりの中で重大な決断を迫られる。一方、料理番の栄児(えいじ)は、混乱を極める宮中で人々を支えようと奔走するが、宮中には不穏な影も忍び寄っていた。それぞれの運命が大きく動こうとする、激動の時代の終わりと始まりを描く緊迫の回。
「溥儀の料理番」あらすじネタバレ30話
ついに、その時が来てしまいましたね。民国政府の圧力は日に日に増し、清朝の命運は風前の灯火。第30話は、歴史が大きく動く、あまりにも切ない回となりました。
紫禁城に響く怒号と、最後の抵抗
大臣たちは、溥儀(ふぎ)が退位の優待条件に署名することに猛反対。「数千の旗人の命がかかっているのですぞ!」と詰め寄りますが、溥儀(ふぎ)は彼らを下がらせ、一人静かに考える時間をもらいます。その心中の葛藤は、いかばかりだったでしょうか。
一方、皇后・婉容(えんよう)は摂政王(せっせいおう)から「陛下は国璽を床に叩きつけて砕かれたとか?」と問われ、「いいえ、落ちたのはリンゴですわ」と気丈に答えます。まだ清の気運は尽きていない、そう信じたい一心だったのでしょう。
しかし、現実は非情です。民国政府の兵士たちが銃を持って重華宮に乱入し、めちゃくちゃに破壊。太妃は机の下に隠れて、かろうじて難を逃れます。あまりの仕打ちに栄恵太妃(えいけいたいひ)は殉国を決意し、李琪(り・き)に栄児(えいじ)を呼びに行かせるのでした。
その頃、李琪(り・き)は宮中で鬼祟(きすい)な動きをする裕公公(ゆうこうこう)[ゆうこうこう,裕得福(ゆう とくふく)]の姿を目撃します。皇帝のそばを離れ、一体どこへ…?
二人の太妃と、溥儀の苦悩
栄児(えいじ)は栄恵太妃(えいけいたいひ)を必死に慰めますが、そこへ敬懿太妃(けいい たいひ)が双喜(そうき)に支えられて現れ、気急のあまり気を失ってしまいます。宮中は大混乱です。
民国政府との交渉の席で、ついに溥儀が署名しようとしたその瞬間、裕公公(ゆうこうこう)が駆け込んできます。「敬懿太妃(けいい たいひ)が白綾に首を…!陛下が署名なされば、すぐに凳(とう)を蹴ると!」
人質に取られたも同然の状況に、溥儀は三日間の猶予を懇願します。
ところが、この危機的状況を煽っていたのが、何を隠そう裕公公でした。彼は太妃たちに「死を覚悟で抵抗すれば、陛下が紫禁城に戻れる一筋の望みが生まれるやもしれませんぞ」と唆し、彼女たちに無謀な賭けをさせるのです。
結局、交渉の末に「太妃たちは一時的に宮中に残る」という条件で妥結。他の皇族や使用人は、即刻退去することになりました。
さらば、紫禁城
ついに溥儀は優待条件に署名し、生まれ育った紫禁城を去る時が来ました。裕公公は「太妃様がたへのご恩に報いるため」と宮中に残ることを願い出て、許可されます。これが彼の真の狙いだったのかもしれません。
李琪と栄児に見送られ、溥儀は寂しげに語りかけます。
「かつてあれほど逃げ出したいと願ったこの場所から、こんな形で追い出されるとはな…」
そして、彼は李琪に最後の「命令」を下します。
「君はもう御前侍衛ではない。これからは君臣ではなく、兄弟であり、友人だ。栄児と幸せにな」
そう言い残し、溥儀は愛した宮殿に背を向けました。
残された者たちと、新たな疑惑
残された人々は景仁宮に移されますが、水もなく、食事も作れないありさま。しかし、栄児が機転を利かせて隠し持っていた水でお粥を作り、皆の空腹を満たします。
その夜、栄児は皆に問いかけます。「裕公公の今日の言動、おかしいと思いませんでしたか?」と。太妃のためを思っているように見せかけて、実は対立を煽っていた彼の行動に、皆が不審を抱き始めます。
かつて栄児を死なせようとまでした敬懿太妃は、彼女に命を救われたことに運命の皮肉を感じ、深く改心するのでした。混乱の中、冷静さを失わない栄児の姿は、かつての姉・寿喜(じゅき)の面影と重なります。
夜、寝具もなく凍える宮女たちのために、栄児が自分の衣類を分け与えるところで、この激動の30話は幕を閉じます。
『溥儀の料理番』第30話の感想
清朝の終焉という歴史的な瞬間が、登場人物一人ひとりの視点から丁寧に描かれ、非常に見応えのある回でした。権威の象徴であった紫禁城を追われる溥儀の、孤独と無念さが滲む背中には、胸が締め付けられる思いです。彼の人間的な苦悩が痛いほど伝わってきました。一方で、絶望的な状況下でも決して希望を捨てず、その知恵と優しさで人々を支える栄児の姿は、この物語の良心そのものです。彼女のたくましさが、暗い展開の中での唯一の救いとなっています。しかし、忠臣を装いながら不気味な暗躍を続ける裕公公の存在が、今後の更なる波乱を予感させます。物語が新たなステージへと大きく動き出したことを感じる、濃密な一話でした。
つづく