婚礼を間近に控え、幸せの絶頂にいた半夏(ハンゲ)。人々と妖が手を取り合える世を願う宣夜だったが、彼の心にはある大きな秘密が影を落としていた。そんな中、街では謎の黒い妖獣が出没する騒ぎが起き、宣夜の様子にも異変が現れ始める。半夏は拭えない不安を感じながらも、彼を信じようとする。そして迎えた婚礼の日。幸せなはずのその日に起きた悲劇的な事件が、二人の運命を大きく狂わせていく。宣夜が隠し続けてきた真実と、引き裂かれそうになる二人の愛の行方を描く、衝撃の展開が待ち受ける。

「無憂渡~瞳に映った真実の愛~」あらすじネタバレ30話

前回までの甘い雰囲気が嘘のような、息をのむ展開が待っていました。幸せの絶頂から突き落とされるとは、まさにこのこと。今回は、宣夜(センヤ)の隠された秘密がすべて明らかになり、二人の愛が試される、あまりにも切ないエピソードです。

幸せな日々の終わりと、忍び寄る黒い影

物語は、半夏(ハンゲ)が甘味処で仲睦まじく過ごすシーンから始まります。人にも妖にも平等な世を望む宣夜(センヤ)は、杏仙事件の真相を暴くため、密かに神都の役人へと手紙を送ります。その穏やかな表情の裏で、彼は妖と人は、添い遂げることなどできないと、半夏(ハンゲ)の心をざわつかせる言葉を口にするのでした。半夏(ハンゲ)は彼の正体に気づいている素振りを見せますが、その不安は的中してしまうのです。

婚礼衣装の試着中、半夏の腕輪の珠が突然弾け飛び、不吉な予兆が二人を包みます。その夜、街に子空(ズークン)の吹く不気味な笛の音が響き渡ると、事態は急変。宣夜の部屋から、なんと一匹の黒い豹が窓を突き破って飛び出し、駆けつけた遅雪(チセツ)を撥ね飛ばして姿を消してしまいます。

翌朝、意識のない遅雪と破壊された部屋を目の当たりにし、半夏は言葉を失います。

暴かれる正体と、崩れ落ちるアイデンティティ

一方、意識を取り戻した宣夜の前に、子空(ズークン)が姿を現します。彼は宣夜の本当の名が蛮瑛(ばんえい)であり、12年に一度開かれる妖霊秘境を守る無憂境の玄豹の妖だと告げます。かつて人間の少女を救うために禁を破り、人界に留まることになった過去、そして人間を親と慕い、一族を忘れた弟を、子空(ズークン)は冷たく罵るのでした。

自分は人であり、捉妖師だと頑なに否定する宣夜。しかし、森で何者かに惨殺された鹿の死骸を前に、彼の心は揺らぎ始めます。自らの正体を確かめるため、妖気を見破る月虫を使った宣夜でしたが、虫は彼の腕にある護符の紋様に噛みつきます。それは、養父が彼の妖気を封じるために描いた、愛と偽りの証だったのでした。自分が妖であるという受け入れがたい真実に、宣夜の築き上げてきたすべてが崩れ落ちていきます。

雨に消えた婚礼と、悲痛な叫び

街では黒豹が出たという噂が広まり、不穏な空気の中、ついに二人の婚礼の日がやってきます。しかし、待てど暮らせど、花婿である宣夜は現れません。彼が住んでいた部屋はもぬけの殻。黒豹の噂を聞いた半夏は、すべてを悟り、顔面蒼白になります。

物陰から苦悩の表情で半夏を見つめる宣夜。彼女を傷つけたくない、人々に受け入れられない恐怖が、彼を縛り付けます。半夏は降りしきる雨の中、街へと飛び出し、あなたの正体はわかっていた!それでも構わない!と泣き叫びます。その悲痛な叫びは、壁の隅で震える宣夜の心をナイフのように切り裂きますが、彼は姿を現すことができませんでした。

やがて、父・段英恒(ダン・エイコウ)に支えられ、力なく家に戻った半夏。彼女の元に届けられたのは、宣夜からのあまりにも短い、婚約破棄を告げる手紙でした…。

森の奥深く、完全に理性を失い、妖力を暴走させる宣夜。愛する人を守るために選んだ孤独な道は、彼を完全な妖へと変えてしまうのでしょうか。

『無憂渡~瞳に映った真実の愛~』第30話の感想

これまで丁寧に紡がれてきた二人の絆と幸せな未来が、たった一話で粉々に打ち砕かれる、非常に密度の濃い回でした。物語の核心である宣夜の正体が明かされると共に、彼のアイデンティティそのものが崩壊していく過程が、痛々しいほどに描かれています。人間として生きてきた彼が、抗えない妖の血によって愛する人々を傷つけ、社会から拒絶される恐怖に苛まれる姿には、胸が締め付けられました。

また、半夏の愛の深さにも心を打たれます。ただ守られるだけのヒロインではなく、宣夜の秘密に薄々気づきながらも、すべてを受け入れようとする強さ。雨の中であなたが妖でも構わないと叫ぶシーンは、彼女の覚悟と絶望が入り混じり、涙なしには見られませんでした。甘美な恋愛ドラマから、種族を超えた愛の在り方を問う、重厚な悲劇へと物語が大きく転換した本話。二人の運命がどこへ向かうのか、見届けるのが辛くもあり、目が離せません。

つづく