動き出す長安の新たな権力バランスと奇妙な怪談の幕開け
終南山での激闘が幕を閉じ、長安には新たな政治の嵐が吹き荒れます。
崔相の陰謀によって良き理解者であった杜銘が流刑となり、天子の懐刀である熊千年が雍州長史に着任したことで、蘇無名(スー・ウーミン)は事実上、雍州府から追い出されてしまいました。
官職を失った名探偵が選んだのは、なんと商人への転身という驚くべき道。さらに、長安の夜を不気味に彩る木彫りの顔を持つ男の怪談が、次なる事件の足音を告げます。
権力の椅子を巡る暗闘と六合酥山店に集う仲間たち
杜銘長史の追放と天子が放った新たな刺客・熊千年
長公主の冷酷な沙汰により、職務怠慢の烙印を押された雍州長史の杜銘(ト・メイ)が寧湖へと左遷されることになりました。
蘇無名(スー・ウーミン)と盧凌風(ルー・リンフォン)の二人は、長安の門外でかつての上司を静かに見送ります。
杜銘は断案(事件解決)では蘇無名に及ばず、捕賊では盧凌風(ルー・リンフォン)に劣るが、寧湖の地でも必ず民のために尽力すると笑い、盧凌風を真の君子であると深く称賛しました。
【長安朝廷の権力シフト】
長公主の圧力 ── 杜銘長史を左遷(寧湖へ)
▼(空席となった京畿の要職)
天子の親政派 ── 熊千年を雍州長史に補任(楊勖の推薦)
▼(新長史の最初の任務)
蘇無名の排除 ──身無官職を理由に暗探総監の権力を剥奪(架空化)
杜銘が去った背後で、天子はすぐさま自らの勢力を拡張すべく動いていました。
楊勖(ヨウ・キョク)の推薦により、長公主派との交際を断っていた熊千年(ユウ・センネン)が新たな雍州長史に就任します。
熊千年は着任するやいなや、蘇無名が一介の白身(無官)であることを理由に、暗探総監という虚職を押し付けて彼の捜査権力を完全に奪い去りました。
夢に現れた木彫りの人形と戸部令使・孟不疑の奇妙な執筆
同じ頃、長安の戸部令使である孟不疑(モウ・フギ)は、夜な夜な奇怪な悪夢にうなされていました。
夢の中で彼の妻である紅薬(コウヤク)が大きな水瓶を跨いで夜空を飛び、密かに情郎である顏君羡と逢瀬を重ねています。
激怒した孟不疑が草むらから飛び出して男の肩を掴んだ瞬間、振り返った顏君羡の顔は、五官が硬直した不気味な木彫りの人形に変わっていたのです。
【孟不疑の悪夢の構図】
妻・紅薬が水瓶に乗って飛行 ── 郊外で情郎・顏君羡と密会
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男の顔が木彫りの人形に変貌
目を覚ました孟不疑は、日頃から怪力乱神の志怪小説を書くことに執念を燃やす一風変わった文官でした。
彼が執筆した『神都怪談』は市井の読者に大人気であり、老書吏から聞かされた蛇妖の怪談にも目を輝かせます。
この孟不疑が書き連ねる長安の奇聞異譚が、やがて二人の名探偵を巻き込む新たな猟奇公案の扉を開くことになります。
蘇無名の困窮と裴喜君(ペイ・シージュン)が提案した甘味ビジネスへの挑戦
刑獄博士の職を解かれ、月俸が激減した蘇無名は、生活費を稼ぐために自分も志怪小説を書こうと思いつきます。
しかし、その計画は盧凌風から狄公の弟子でありながら、長安の治安を忘れて文字稼ぎに走るのかと激しく嫌悪されてしまいました。
見かねた裴喜君(ペイ・シージュン)(ペイ・シージュン)は、長安の猛暑を癒す最高級の氷菓子酥山(そざん)の専門店を開くことを提案します。
資金調達のために喜君が長安の高級邸宅をあっさりと売りに出したことで、一同は彼女が河東の名門出身としての膨大な資産を隠し持っていたことを知ります。
名門の令嬢が商売をすることは一族の体面に関わるため、費鶏師(フェイ・ジーシー)が名目上の店主となることが決まりました。
こうして、長安の繁華街に彼らの新たなる拠点となる六合酥山店(りくごうそざんでん)が堂々と誕生したのです。
長公主の降臨と大唐鶏公の誕生がもたらした奇跡
開店初日の大騒動と絶品酥山の風味が呼んだ絶賛
開店当日、六合酥山店は大きな太鼓とドラの音と共に幕を開けましたが、集まった長安の目の肥えた客たちは冷ややかでした。
ただの砕いた氷に雑多な具材を乗せただけの見掛け倒しだと、一部の民衆から厳しい声が上がります。
口下手な費鶏師(フェイ・ジーシー)がうろたえる中、喜君が自ら前に立ち、酥山の持つ高貴な由来と職人のこだわりを凛とした声で解説しました。
【六合酥山店の逆転劇】
民衆の不満ただの砕き氷ではないか
└── 長公主の豪華な鑾駕が突入
└── 費鶏師に大唐鶏公の称号を下賜
└── 長公主が絶賛これは美味、至高の風味がする
└── 長安の民が手のひらを返し、店は大繁盛へ
そこへ、突如として長公主の豪華な鑾駕(馬車)が店へと乗り込んできました。
長公主は蘇無名に対し、朝廷のために働くのを辞めて商人に成り下がったのかと激しい怒りの言葉をぶつけます。
しかし、蘇無名から本当の店主は費鶏師ですと告げられた長公主は、かつて第5話の血戦で重傷を負った陸仝を救い、間接的に彼女の軍事権力を守った彼の救命の恩を思い出しました。
長公主はその場で費鶏師に対し、大唐鶏公(だいとうけいこう)という極めて名誉ある独自の封号を親賜します。
さらに自ら酥山を口に運ぶと、その濃厚で滑らかな至高の風味に目を見張り、声を大にして褒め称えました。
貴人の絶賛を目撃した民衆は一転して手のひらを返し、店はまたたく間に長安一の超繁盛店へと大化けしたのです。
長公主が喜君に贈った言葉と青龍坊に響く琵琶の音
長公主は蘇無名を呼び出し、公主府の要職を提示して自らの陣営に引き込もうと揺さぶりをかけます。
しかし蘇無名は腹部に重傷を負った盧凌風を一人で捜査させるわけにはいかないと語り、これを丁寧に辞退(ことわり)しました。
長公主はそれが体面を保つための口実であると知りつつも、愛息の身を案じる蘇無名の忠義に免じて引き下がります。
去り際、長公主は喜君を近くに呼び寄せ、盧凌風について語りかけました。
凌風は木訥で風情に欠ける男だが、一度交わした約束は決して破らぬ、朝秦暮楚(心変わり)をするような卑劣漢ではない。必ずお前を大切にする
その言葉は、国を背負う冷酷な政治家としてではなく、一人の母親としての温かな眼差しが込められた瞬間でした。
一方、盧凌風は不条理な権力闘争に惑わされることなく、青龍坊の路上に流動公堂(移動裁判所)を設置して民の訴えを聞こうとしていました。
しかし、突如として坊の通りが騒がしくなり、多くの民衆が裁判を放り出して一方向へと走り始めます。
人混みの中心には、かつて平康坊でその名を轟かせた伝説の花魁・紅薬が、物憂げな表情で琵琶を爪弾く妖艶な姿がありました。
志怪小説『神都怪談』と大唐の高級スイーツ酥山の文化的背景
孟不疑が執筆する『神都怪談』と唐代の志怪文学
本話で登場した戸部令使・孟不疑が書く『神都怪談』は、唐代に全盛期を迎えた唐代伝奇や志怪小説の文化を忠実に反映しています。
当時の文官たちは、日頃の退屈な官僚業務の裏で、狐狸や妖怪、道術をテーマにした怪異譚を執筆し、それが市井の印刷技術の発展と共に広く流通していました。
彼が見た木彫りの顔を持つ男の悪夢は、単なる脳内の妄想ではなく、長安の地下で暗躍する人皮面具の残党、あるいは傀儡術を操る新たな猟奇殺人犯の存在を示唆する重要な伏線となっています。
最高の贅沢品!唐代の宮廷スイーツ酥山の歴史
喜君が長安に導入した酥山とは、現在のソフトクリームやブッブブ(かき氷)の起源とされる実在の唐代宮廷スイーツです。
牛乳を加熱・発酵させて作った濃厚な酥(クリーム)を、細かく砕いた天然の氷の上に山のように絞り出し、冷やし固めて作られました。
当時、氷は冬の間に氷室に保管された極めて貴重な資源であり、酥山は皇族や高官しか口にできない最高の贅沢品だったのです。
この高貴なデザートを市井に広く開放し、さらに長公主の墨付きを得た喜君の経営センスは、今後の名探偵たちの重要な資金源となるでしょう。
華やかな長安の裏で蠢く新たな猟奇事件の足音
前朝の怨念が渦巻いた終南山編が終わり、舞台が再び長安の賑やかな市井へと戻ってきたことに胸が躍るような高揚感を覚えました。
特に、無官となって困窮した蘇無名が小説家になろうとして盧凌風に叱られるコミカルな掛け合いや、喜君の資産家ぶりが発覚するシーンは最高の清涼剤です。
費鶏師が大唐鶏公に任命され、長公主の威光で店が大繁盛していくプロセスは、これぞドラマとしての最高のカタルシスと言えます。
しかし、ラストシーンで登場した平康坊の元花魁・紅薬の琵琶の音色は、どこか血の匂いを予感させます。
次回、司法参軍の盧凌風と、商人となった蘇無名が、孟不疑の『神都怪談』に隠された木彫り人形の連続殺人の謎にどのようにして挑むのでしょうか。
華やかな繁華街に隠された、人間の歪んだ愛欲が引き起こす新たな猟奇公案から、一瞬たりとも目が離せません。
つづく


